[物語]寂しい風が吹いたら 1

優しい人があの人。
優しさが、全身から溢れてる。
それがあの人。

いつものあの部屋のテーブルの向こうに
静かに佇むように座っているあの人。
扉を開けて入って、
僕はテーブルのこっち側に座る。

顔を上げると、
少し右に顔を傾けたあの人が、
僕に耳を澄ませて待ってくれている。
その瞳は優しさと暖かさで溢れてる。

あの人はいつだって、
そんな人。

だけど、僕は知ってる。

時々あの人に、
寂しげな風が吹いてたんだ。
時々吹き込むその風が、
僕はとっても気になって。

それはいつも一瞬のこと。

恐らく誰も、気付かない程の。
ほんの一瞬に、吹く風で。
それはとても冷たく、
それはとても寒く、
とても寂しげな、そんな風。

いつも気を取り直すように、
僕に微笑むあの人に、
心奪われるのは必然で、
時間は必要なかった。

寂しいのは当たり前。
わかってくれないのも当たり前。
だってこれがわたし。
だけどわたしはあなたの話を聴く。
いいの。
わたしに誰も、興味なんてないもの。
それがわたしだもの。

そんなあの人の、
寂しげなのに暖かな優しい瞳に、
僕は目が離せなくなったんだ


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