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傾国老人 第十話(最終話)
じいちゃんは病院を抜け出せるような体調ではなかったので、判決期日は、ぼくひとりで傍聴に訪れた。
「森保由布子を控訴人とする、遺言無効確認等請求事件の判決を言い渡す」
大阪高等裁判所の法廷のいちばん高い所に三人の裁判官が座っており、原告席には柏木弁護士と森保おばさんが座っていた。
「主文」
裁判官の朗々とした声が響く中、地元の記者たちは小ぶりのメモ用紙にペンを走らせている。
「一、原判決を取り
少年コピーキャット 第十二話(最終話)
エアコンが生温い空気を吐き出す中、学習机の上に教科書を開いているフリをした。
中学最後の夏は、偽装引きこもり。
高校最後の夏は、偽装受験生として過ごした。
嘘ばっかりの人生だ。
しかしながら、夏休み中はそれこそ執筆に没頭した。
……などということは一切ない。縦書きのワードファイルを開いても、真っ白のページに書くべき内容が何も思いつかなかった。
一文字たりとも書き出せなかった。
どう
少年コピーキャット 第十一話
沙梨先生の自宅へ通っていた頃は、ただその建物を見上げ、素通りしていただけの文藝ビルであったが、今日は正式な用事があってここに来た。
一昨日、見知らぬ番号から電話がかかってきた。
ふだん自分の携帯が鳴ることなど滅多にない。電話をかけてくるとしたら沙梨先生か、暇を持て余した倫也だけ。だが、ほんの数日前に沙梨先生とは没交渉になったばかりだ。案外に強情なところのある先生が前言を翻し、国交を復活させる
少年コピーキャット 第十話
ふと目覚めると、時刻はすでに夕方近くであった。
沙梨先生との別れ際に投げかけられた問いについて、あれこれ考えるのに疲れ果てて、学習机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。
おかげで両腕が痺れるように重い。身体を起こして椅子にもたれかかると、学習机の脇に置いたスマートフォンが薄暗い光を発しているのが見えた。
充電不足でバッテリーが切れかかっている、というサインである。
いつから寝入ってしま
少年コピーキャット 第九話
期末テスト後、図書館内にある閲覧室で個人面談が行われた。
面談が行われる際は、クラス担任と生徒以外の図書館への立ち入りが禁じられることもあり、小峰先生とぼく以外の姿はなかった。
「なあ、藤岡。どうにかして荻原の脳ミソをバージョンアップさせてくれや」
冷房が利きすぎてむしろ寒いぐらいの温度であるのに、小峰先生はいかにも暑そうだ。ぱたぱたと手を扇いで首筋に風を送っている。
「それは無理です」
少年コピーキャット 第八話
中学最後の夏休みを一か月前に控え、ぼくは一足先にプチ夏休みに突入した。
小峰先生の言いつけ通り、二週間ほど自宅に引きこもった。
なぜ期末試験直前のこの時期に、二週間も学校を休まねばならないのか。ぼくの曖昧な説明では両親にまったく理解してもらえなかったけれど、クラス担任の小峰先生の家庭訪問が信頼の証となったのか、はたまた東大発のプロジェクトというパッと見それっぽい看板のおかげか、わりとすんなり