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【IDと教員研修28】「熟達者は何をどう伝えるか」


「徒弟」というイメージ

弟子が師匠に従う,というイメージが「徒弟」にはあります.ですから,話私自身は「徒弟制」と聞くと,先生がギルドの師匠になって,一子相伝のように技術を伝達するのかな,ということを考えてしまいました.ベストキッドみたいな(古).

しかし,「認知的」とあるので,様相は異なるようです.
学習に「徒弟制」を取り入れるよさ,について考えていきたいと思います.

認知的徒弟制の考え方

ジョン・S・ブラウンが提唱したこの考え方は,熟達者がそのスキルや知識を効果的に教えるための方法です.
完全な習得,完全な自立に向けてビシバシ鍛える,というより,しっかり教えて,しっかり任せられるようにすることが基本です.

3つのプロセス

認知的徒弟制では3つのプロセスで教えます.
① モデリング
まずはやってみせて,よく観察させることです
② コーチング
やってごらんと試させて,できないところにはアドバイスをします
③ スキャフォールでキング&フェーディング
できないところがある場合は,一時的支援(足場かけ)を行い,上達したらそれを少しずつ取り除くようにします.
足場かけが,スキャフォールディング.足場はずしが,フェーディングです.

どうやって足場をかけるか,いつはずすか,あるいははずさないか

なんだかクイズみたいな小見出しですが,スキルや知識を習得させるには,この考え方がたいへん重要です.
例えば,新人の教員に,「端的な指示」のスキルを伝授しようとしたとします.
この時,「端的な指示」ができるようになるためのステップを描きます.
例えば,
・ナンバリングのスキルを教える
・総括型の話型を教える
・言い切り型で話を終えるコツを教える
といった項目があったとします.

この中で,ナンバリングのスキルの足場かけをすると想定します.
ナンバリングとは,「これから3つ話します」というように,話し出しにいくつ伝えるのかを表明する技術です.見通しをもつ力が大切です.

足場かけをする際には,まずモデリングでよく観察させます.
いくらナンバリングをするからといっても,「これから10個話します」と言われても,子供は理解できません.
大まかにいくつくらいの内容にするとよいのか,どの程度の内容のまとまりに分けているのかといったことが気づけるようにします.その後,コーチングで試せるようにします.

しかし,最初はうまくいかないことも多いでしょう.
3つ,と言ったのに,やっぱりもう一つ,ということがあったり,3つといったのに,2つで終わったりすることもあるでしょう.

そんな姿を捉えて,しっかり足場かけします.
何ができて,何ができないのかをはっきりさせます.
師匠となる伝達者は,ここで,観察する目を磨くことが重要です.
よく様子を観察して,できない原因を考えたり,本人との対話を通して,何ができているのかを確かめたりと・・・まさに個別対応です.

そんな中で,例えば,話型はできているが,話の見通しを立てる時に分ける視点が定まっていないという原因があったとします.

例えば,「机上整理して授業の準備をする」という指示を考えたとします.
例えば,ダメな例です.
「三つ指示をします.まず,机の上をきれいにします.上に乗っているものを片付けましょう.次に,授業の準備で必要なものはなんでしたか.考えてみましょう.そうですね.算数の教科書とノートが必要ですね.さあ,では三つ目ですね.必要なものを準備しましょう」
という感じです.よかれと思って詳しく伝えているのかもしれませんが,何を指示したいのか,あまり入ってきません.

この時視点となるのは,「子どもの動作」です.一つ目に何をして,二つ目に何をして・・・というように,することを指示します.
「机の上をきれいにして授業準備をするために,3つ指示します.一つ目,机の上に出ているものを全て引き出しにしまいましょう.(待つ)二つ目,算数の教科書,ノート,筆入れを出します.(待つ)三つ目,教科書は左側,ノートは右側,筆入れは右端に置いて待ちます」
具体的に何をどうするのかを伝えることが大切,ということが大切であるということを教え,できるまでしっかり観察します.

教師も,子供も

教師も,子供も,できるようになることは自信につながります.だからこそ,しっかりと,「できた」と感じられるような足場かけと,「もう一人でできそうだから頑張ってごらん」と足場をそっとはずしてあげることが自立を促すはずです.自転車に乗る,という練習のイメージです.

教員研修も同様です.
話を聞いた後すぐに演習では,きっとうまくいきません.大人だから我慢してるだけです.演習に向かうまでには,何かしらの見通しや足場かけがあるはずで,それを仕組むのが腕の見せどころになりそうです.

次回は少し発展して,「完全習得学習」について考えてみましょう.

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