【IDと教員研修28】完全に習得すべき「基礎」とは何か
学習することを分解していくと見えてきたこと
前回は,認知的徒弟制について考えました.しっかり教えるということ,できりるようになるまで教えるということは,教員研修の観点からは,若手・中堅・ベテランというステージからだけではなく,ベテラン管理職が新任管理職に教えていく,といった内容も考えられるのではないかなと思いました.
さて,今回は,「教える」「学ぶ」ということについて「完全習得学習」という理論から考えてみましょう.
この理論はB・S・ブルームらが1960年代後半にモデル化しました.60年前の時代背景も付与しながら考えると,「完全」にマスターさせるという意味合いの背景にも視野が広がるかもしれません.
ブルームといえば,教育目標の分類学でもよく知られている方ですね.日本語で学ぶなら,梶田先生の著書が参考になるかと思います.学習の何をどのように見とるのか,切り取るのかといった基礎について考えるためには必須の理論になりそうです.分類学については,1970年前半が発表の時期ですから,完全習得学習はその前です.このような位置関係も考えるヒントがありそうですね.
どんな学習法か
ブルームが提唱しているのは,次のような学習法です.
学習単元において達成されるべき目標群を明確にする
全ての子供たちが達成すべき最低到達基準(マスタリー基準)を決める
達成・未達成が明確に判断できる形勢的テストを作成・実施する
未達成者に与えるべき教材や指導を行い,達成できるようにする
現在でもこの考え方は援用されていそうです.
最低到達基準をきめたら,達成・未達成がわかるようにミニテストを繰り返していくといったイメージです.
「完全に習得する」って,結構強めの言葉ですね
「完全に習得する」って,日本の教育現場の中でどのような捉え方をするんでしょうか.ドリル学習を反復しまくるみたいなイメージでしょうか.漢字の50問テスト,全部正解までやりましょう,だったり,数学のミニテストは10問中10問正解になるまで続けましょう(暗記しましょう),といったエピソードがありそうです.
つまり,結構強めの,強制的な学習のイメージがあるのかもしれません.たしかに習得できた方がいいのかもしれないけれど,そんなに強制的でよいのか?ということは,一定程度議論があるのかもしれません.
・・・といいつつ,今回この「完全習得学習」を取り上げるのは,そのような強制的な学習方法の是非を考えることではなくて,違う視点から「完全に習得する」ことを捉えてみようということです.
例えば,漢字の50問テスト.この50問は,何によって,どんな基準で選定されているのでしょうか.数学のミニテストも,なぜこの10問を完全に解ける必要があるのでしょうか.
それはおそらく,このような問題が「基礎」として位置付けられているからです.これから学習を進めていく際に,この問題だけは「基礎」として押さえる必要があると判断されているからです.
では,その判断は誰がどのように行なっているでしょうか?
多くの場合は,その教科等を指導する教師となりますよね.
学年の先生たちで話し合って決めているかもしれません.
でも,市販のテストだと,教科書や指導書を基準として,業者が決めている場合もあります.この場合は,本当にそれが基礎かどうかは検討する必要がありそうですね.
マスタリー基準をどのように設定するかが大切
このように,完全に習得することをねらう学習においては,「基礎」を考えることが基準になり,基準に合わせて完全に習得できるまでのテストや,支援・指導をイメージしていくことが重要になりそうです.
ここでいう「基礎」,これは完全習得学習では,「マスタリー基準」と同義です.この基準を設定するときに,教師は何をどのように考えているのかを振り返ってみましょう.
多くの場合,「基礎」は学習指導要領や指導書等に示されていますから,それをもとに設定することができます.
しかし,「全ての子供が」というあたりでは,どの程度の子供を基準にするのかは,教師の考え方次第になります.一律平均点で切る,という場合もあれば,ある程度ばらつきのある集団には,一定水準のラインを引くイメージになるでしょうか.そしてこのように考えることは,多様性を排除することと必ずしも対峙するものではありません.
完全習得学習をねらう,というのは,その集団全体が達成できそうな「基礎」を見直すということに有効でありそうです.完全に習得するというイメージだと,ただ繰り返していくようなドリル学習のイメージに囚われてしまうかもしれませんが,例えば,給食指導や掃除の指導も,この考え方は使えるかもしれません.
「基礎」を捉え直すことのきっかけとして.
集団にとって必要な「基礎」とは何か?をディスカッションする研修が組めそうです.
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