【IDと教員研修12】効果的な学習環境を実現するための工夫 ID第一原理
前回の記事では,大人(成人)の学び,「アンドラゴジー」について考えました.大人ならではの学びの視点は,学習者の状況によって多様な場面が想定できそうです.
今回は,学びをつくるための環境について考えます.
どんな環境だと,学びやすいのか.
どんな環境が,よい環境なのか.
どんな環境には,学びの仕掛けがあるのか.
共通項から原理を導く
と,確かに当たり前のことではありますが,これがID第一原理です.様々なインストラクショナル・デザインのモデルや理論について,共通する要素を見出していくと,5つになった,ということです.
M・デイビッド・メリルによって,2002年に提唱された理論です.効率的・効果的で魅力的な教材や研修づくりに関するモデルや理論を集めるという発想は,今では基盤的原則とも言われています.5つについて,順に確認してきましょう.
1 問題(Problem)
現実的に起こりそうな問題に挑戦する,という要素です.
現実的な問題であることで,「役立ちそうだ」という気持ちがわきます.
教員研修では,ケーススタディのような場面が考えられるでしょう.もしこんな場面に出会ったら…と,自分に引き付けて考えるきっかけになります.
2 活性化(Activation)
すでに知っている知識を動員する,という要素です.
アンドラゴジーにおいて,成人の学びには経験が重要視されることを述べました.正解はあえて伝えず,どうなるかを考える時間を個別あるいはグループでとります.
3 例示(Demonstration)
能書きを語るのではなく具体例を見せる,という要素です.
<Tell me>ではなく,<Show me>と例えられることもあります.
伝えたいことを丁寧に,分かりやすく述べていくのは大切なことです.しかし,授業はこうあるべき,学習はこうあるべき…と抽象的な内容が続いても,そこに実感的な理解は生まれません.
一つでもよいので,例示をする.一つでもよいので,具体的な場面を想起させる.これだけでも,教材提示の効果アップにつながります.
4 応用(Application)
応用するチャンスがある,という要素です.
これは,例示とつながっています.
例えば,「授業で離席している子供がいるときの対応」について具体例を示したとします.「座りましょう」と声をかけて座らなかったら,次は側に行って理由を尋ねる,それでも難しかったら…などの例です.
例示を示すと,「自分ならこうするかもしれないな」と思うことがあります.似ている対応かもしれませんし,視点の異なる別のアイデアかもしれません.
このような,例示の後に,応用を考えてみるような練習の場面を設けることで,実際の想定で試行錯誤して考える経験につながります.
時には応用のチャンスが失敗になることもあるかもしれません.しかし,練習中の失敗はむしろ大チャンスです.一緒に原因を探ったり,プロセスそのものを見守ったりすることが考えられます.
5 統合(Integration)
現場で活用し振り返るチャンスを設ける,という要素です.
学びを生かす,ともいえます.
アクションプランを立ててみましょう
行動目標を決めましょう
学校に帰ってから学習を生かすまでの過程を書き出してみましょう
…といった投げかけが考えられます.
教員研修は兎角,受けてしまうとそこで完結,という場合が多いかもしれません.IDでは,学びを生かすことをゴールとして,自分の学びとして醸成していく工夫があるのかもしれませんね.
5つとも,「確かにそうか」という内容もあれば「当たり前かも」という内容もあったかもしれません.「原理」ですので,考えの基盤としていつも意識することで,自然と,ID的な思考が身に付くかもしれません.
次回は,メリルの第一原理を参考に,「学び」の原理についてまとめた理論についてご紹介します.