Bible Gamer 第七夜 「初代教会」
イエスが刑死した後、まだ存命だった使徒たちの宣教活動は、新約聖書「使徒言行録」に記録されている。この時代は、信仰的にも教会史においても、いずれも特別な意味を持つ。
最初期の教団の存続は、献身的な個人行動と、それに支えられた緊密な集団活動との両方に依存していた。キリスト教にとって最初の、そして最も刺激に満ちたこのわずか数十年で、内にも外にも憂慮すべき多くの問題を抱えつつも、福音伝道の波は目覚ましい早さで拡大し、地中海世界全域に教線を伸ばし続けた。
こうして、パウロを初めとする初期伝道者たちの労苦は、キリスト教の礎となって結実し、今日に至っている。
この初期キリスト教時代を背景にしたアナログゲームがいくつかある。ここでは、その中から3点を紹介しよう。いずれも英語版で、日本語版は発売されていない。
パウロ亡き後の使徒たち
「The Journeys of Paul(パウロの旅)」は、パウロが殉教した後の時代から始まる。そのため、名称のイメージに反して、このゲームにパウロは登場しない。
プレイヤーたちはパウロの遺志を継いだ無名の使徒となり、パウロのようにローマ帝国領内で伝道活動をする。ゲームでプレイヤーたちはエルサレムから出発し、陸路を伝うか、船で海路を渡って各地を訪れ、その過程でセルグループ(小規模な信徒の集団)を集める。
このセルグループを、カードで指定された都市に7グループを集結させると、そこに教会がひとつ建設される。ゲームの目的は、別々の場所に3つの教会を設立した後、最も早くローマに到達することである。
パウロが被ったような苦難はイベントカードで表されている。イベントはプレイヤーたちに被害をもたらすものが多く、ゲームの攻略はその対策がカギとなる。もっともわかりやすい対策は、不幸なイベントを無効にするカードを入手することだ。しかし、それを手に入れられるかどうかは完全に運次第である。
そこで、他のプレイヤーと交渉し、自分のカードやセルグループなどの所有権を取り引きすることで、必要なカードの獲得を試みることがルールで認められている。
ただそれでも、全ての厄災を防ぎきることは到底できない。本作の制作意図は、当時の使徒たちを取り巻くシビアな環境を再現することにあるからだ。プレイヤーたちは、小さな挫折をくり返しながらも、理不尽な苦難を織り込んだ上で、どうにかして勝利への道筋を探り続けることになるだろう。
福音伝道の協力ゲーム
ゼロ年代のボードゲームシーンには、様々なゲームシステムが現れ、そして人気を博した。「協力ゲーム(Co-op)」はそのひとつである。
協力ゲームというジャンル自体はそれ以前からあったが、メインストリームのひとつとなったのはゼロ年代からだろう。本作「Commissioned(使命)」は、その協力ゲームである。
協力ゲームとは、全員が共同で勝利を目指すゲームである。プレイヤーたちには共通の目標が置かれ、それを成し遂げるため互いに連携し、時に論じ合って共闘する。
つまり、戦う相手は人間ではなくゲームシステムとなる。そのため、協力ゲームにおける「勝利」とは、そのゲームの参加者全員の勝利であり、「敗北」とは全員の敗北を意味する。
このゲームでプレイヤーは、アンデレ、バルナバ、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、パウロのいずれかになる。それぞれの使徒には異なる内容のカードセットが用意されており、聖書に描かれた、初代教会の形成における彼らの重要な役割が巧みに反映されている。
プレイヤーたちは自分が受け持つ使徒の持ち味を生かすように立ち回り、福音を宣べ伝え、試練に挑む。それには全員で話し合うことが必要不可欠だ。だがこのゲームには、他のプレイヤーとのコミュニケーションを阻害する(具体的には会話が禁止される)ことがランダムに起こるルールがあるのだ。
共闘の足かせとなるこの不条理なシステムによって、任務の障壁はさらに高くなるだろう。しかし、そのような事態に陥ることを前提にした戦略と計画を立案する重要性が増しているともいえるし、実際このルールはそのように機能している。
他にも、新約聖書の各文書を収集するなど、興味深い要素がちりばめられている。一方で、ルールにも記載されている通り、キリスト教やその歴史の知識がなかったとしても、十分に楽しめるゲームにもなっている。個人的には、福音的な表現に偏らず、あくまで歴史に基づいた堅実なゲームとしてデザインされていることに好感が持てた。
すごろくと聖書クイズ
第六夜でクイズ系のゲームをいくつか取り上げたが、「The Life of Paul(パウロの生涯)」もその系統だ。
プレイヤーのコマは、パウロの出生地タウロスから出発し、宣教旅行にちなんだ都市や地域を、すごろくのようにつながったマスに沿って進む。
手番では問題カードを引き、カードに記載された問題を読み上げた後、それに答えるか、わからなければパスする。なお問題の出題範囲は、使徒言行録とパウロ書簡に限定されている。
問題に正答したなら、カードに指定された数だけ自分のコマを前進させる(難しい問題ほど、正答したらより多くのマスを進める)。間違えるか、答えられなければそのマスに留まる。
これを繰り返し、いち早くゴールのローマに到達したプレイヤーの勝利となる。
以上のように、ゲームとしてはいたってシンプルだが、肝心のクイズが少し難しい。例えば以下のような問題があるのだが、あなたはこの問いにすぐ答えられるだろうか?
このゲームでは、これらの問題に正答しない限り、自分のコマを一歩たりとも進められない。
また、付属品にサイコロがあるのだが、ルールを何度読み返しても、それをどう使うのか記述がない。
さすがにこれは厳しいので、普通のすごろくのように、まずサイコロでコマを進め、それから問題カードを引くように遊んでもよいのではないだろうか(それでも難しい問題に難儀することに変わりないだろうが…)。
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