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恋がしたくないわけじゃない 第2話 年下の男の子
「麻希さん、本当に申し訳ございません。
今日は、久しぶりの完全オフだったのに…
僕の失態で呼び出してしまって…
後は、事務所に帰ってチーフに報告するだけなので大丈夫です。
チーフにはどやされるでしょうけど…」
「翔馬君…
私も事務所に用事があるのよ。
さぁ、乗って!
午前中にこの案件を終わらせてみんなでランチに行くわよ!
あなたが悪かった訳じゃないの。
あの社長は、私に謝らせたかっただけなのよ。
書類の不備に激怒したフリをして、あなただけではどうにもならないように追い詰めて私を呼び出したかったのよ。
普段なら、こんな小さい案件で顔を出したりしないわ!
前の会社に私がいる時から、ライバル視されていたのよ…
あなたは巻き込まれただけだから気にしなくてもいいわ。
これからは、書類に不備がないように周りにも確認してもらいなさいね?
時間が無いのは言い訳にならないのよ?
事務所に戻ったら、チーフからお説教があるでしょうけど…
5分以上続いたら私が止めるから、5分だけは我慢しなさいね?」
「はい、社長!
チーフのお叱りに5分だけ耐えます。
あの…僕…助手席にお邪魔していいんですか?」
麻希は、翔馬を助手席に乗るように促すとサングラスをかけ、シートベルトを装着しエンジンをかけた。
ホワイトパールに光る国産のスポーツカーは彼女の愛車だ。
普段は、レトロな雰囲気の可愛らしい車で通勤している麻希だが休日はスポーツカーを走らせて遠くまでドライブするのが好きなのだ。
助手席の翔馬は、流れていく景色に目を奪われているようで無言である。
呼び出された会社が海の近くだった事もあり、帰り道は景色のよい海沿いをドライブして帰る事にしたのだが、翔馬は海の無い県出身という事もあり、窓の外に広がる太平洋に見とれているようだ。
翔馬君…
本当に純粋な子なんだよね…
営業職としては、もう少し腹黒な方が良いのだけれど…
これから彼をどう育てて行くかは、チーフと話し合わないとね。
「翔馬君、ランチの予約お願いしていいかしら?
事務所付近で、13時に6人で個室を取れたら何処でもいいわ」
「かしこまりました。
麻希さんの好きな蟹クリームパスタの店空いてるかなぁ…
黒毛和牛のローストビーフがリーズナブルに食べられるとこも捨てがたいなぁ…」
翔馬は、麻希の好みをバッチリ押さえているようだ。
「翔馬君のチョイスは、いつも間違いないから任せるわよ。
徒歩移動出来るか、駐車場完備なら言う事ないわね」
「予約完了しました!
徒歩3分の穴場なのでお楽しみに!
麻希さん…
僕、ちょっと仮眠してもよいですか?
会社に着いたら起こして下さい。
このままだと、チーフのお説教の最中に寝ちゃいそうで…」
翔馬は、言い終わると同時位に寝てしまった。
社長が運転する車の助手席で寝るなんて…
中々の新人である。
翔馬君…
昨日眠れなかったのかしらね?
1人で営業先と商談するの初めてだったから緊張したのかしら?
麻希は、翔馬を起こさないように静かな運転を心がけるのだった。