【SS】小春の十月桜(2011/01/13)

 毎夜あなたを夢に見て、その日が来るのを待っていた。
 わたくしを迎えに来た彼は、優しく髪を撫でつけながら、柔らかな笑顔でこう言うの……

「待たせてすまなかった」

 いいえ、そんな……わたくしこそ。お役に立てなくて……
 そんな返答しかできないわたくしを、あなたはどう思うかしら。

 夢で会えたらどんなに幸せでしょう。そんなことを初めは思っておりました。
 けれどもわたくしはあなたの幻に出会うたび、届かぬこの手を差し出して、眠れぬ夜を過ごすのです。日に日に身体は衰えて、とても生活できませぬ。
 こんなわたくしを、あなたに知られたくはない……
 彼がいないと、途端にダメになってしまう……なんて情けない姿だろうか。
 恥ずかしい……こうしてる間にも彼は務めと闘っているというのに。
 悔しい……自分の役割すら果たせないわたくしなど、要らない存在に思えます。

淋しくて、会いたくて、とても心苦しい……

寒い、寒い……早く、早く……

『お願い、帰ってきて…………――さん』


   *

「入るよ?」

 唐突に響いたよく知る声に、ゆっくりと開かれゆく襖に、涙を禁じ得ない……あらゆる衝動を抑えながら現れるのを見守れば、そこにいるのは夢にまで見た人物で。

「ただいま」

 その一言に、わたくしはようやく息吹を取り戻し、安堵にも似た夢心地な、暖かい春のような心境でございました。
しかし夢は幻……現実とは非なるものですね。
 その後は全くもって予想外の成り行きでしたが、やはりわたくしは今日この人に会えて幸せに思います。

 例えその場限りの逢瀬でも……
 それならばコレが夢か幻なのかもしれませぬ。

 いつかまた現実にお会いしましょう……――



ココロの吐き溜めな、掃き溜め倉庫(時代遅れなガラケー)サイトから……面倒でも諦めずにコツコツと引っ越した甲斐がありました!! と、言えるように頑張ります(´;ω;`)ウゥゥ