夜明けのすべて(※ネタバレあり感想)

去年観た映画でいい映画だったな~という映画を語りたい。

瀬尾まいこ原作、三池唱監督の「夜明けのすべて」


主人公の藤沢さん(上白石萌音)は、PMSがひどく、生理前は感情のコントロールができない。彼女は新卒で入社した会社をPMSが原因で辞め、今は中小企業(町工場)で働いている。ある日、藤沢さんは些細なことで同僚の山添くん(松村北斗)に怒りを爆発させてしまうのだが、彼はパニック障害を抱えており、無気力に生きていた

冒頭の印象

正直に言うと、冒頭はイライラしながら観ていた。
藤沢さんに対して、
「なんで体調が悪いのに、雨に濡れたままベンチに座っているの!?」
「感情のコントロールも、眠気も、みんな必死に戦ってるのに、被害者面はずるいよ」
と思っていた。

これは、私の所属してきた環境が私にもインストールされていて、「弱っている姿を周りに見せるのはダサい」「筋トレと同じで人は傷ついた分だけ強くなる」という、非常に男性社会に染まった考えを持っているからだ。経験上、女性であること、すなわち生理やPMSを理由にすることで、さらに男性を優位にしてしまうと思っていたため、辛くても「女であること」を理由にせず、ひたすら耐えることが美徳と思ってきた。

山添くんに感情移入

山添くんが登場したシーンから、山添くんにとても感情移入してしまった。
山添くんはかつて大企業に勤めていたが、パニック障害によって電車通勤ができなくなり、上司の紹介で現在の会社に転職してきた。
同期も彼女もエリート。自分ももっと頑張りたい!エリート街道駆け上がりたい!と思っているのに、自分の体が思い通りにならない。
だから、感情を殺して、何とか自分を保っている。

自分はエリートでもなんでもないけど、山添くんは自分なのか?と思ってしまった。自分の体を自分でコントロールできずにもがく苦しみが痛いほどわかる。私が藤沢さんに感情移入できなかったのは、彼女は自分の弱い部分を「それも自分だ」と受け入れる部分があったからかもしれない。私は未だに自分の体をコントロールできないことにストレスを感じて、いちいち絶望してしまう。絶望を紛らわせるために、無気力になる山添くんの気持ちを理解できる。

「この映画、良い映画だ・・・」と思った場面

決定的に「良い映画だ・・・」と感じたポイントがある。
藤沢さんが山添くんのパニック障害に気付いて、自身のPMSについてカミングアウトするシーンだ。このカミングアウトについて、山添くんは、
「PMSとパニック障害は全然違いますよね」と言う。
これには、「自分はれっきとした病気だけど、PMSってお腹いたいとかイライラするとかそういうちょっとしたことでしょ」というニュアンスが含まれていたと思う。
その言葉に、藤沢さんは「そうだね。違うかもね!」(確か)とだけ言って去る。

とてもあっさりしていて、優しい場面だった。
それぞれ抱えている辛さは比べるものではないってことを藤沢さんは知っていたのだと思う。冒頭の彼女の行動にイライラしていた自分はまさに山添くんで、私も藤沢さんに「そうだね。違うかもね!」と言われているようだった。とげとげした観方をしていた自分に反省した。

好きな場面①

会社帰りの2人のシーン。2人が会社から一緒に帰っている途中、山添くんが会社に忘れ物をしてしまっていることを思い出す。山添くんが忘れ物を取りに会社に引き返す一方で、藤沢さんは1人帰路につく。

当たり前と言えば当たり前の場面だが、とても印象的だった。彼らは恋愛関係に発展しない。映画の中盤で、お互いを特別な存在として意識し始めるあたりであったため、私を含め観客は「帰り道に告白するのかな~」などと思ってしまう。その期待が良い意味で裏切られる。
特別な関係というのは、恋愛関係だけではない。社会には恋愛関係以外の特別な関係もあるし、それが普通だ。お互いの違いを受け入れながら、相手が辛いときには手を差し伸べられる2人の関係性がとても素敵だった。

好きな場面②

映画後半。移動式プラネタリウムのプロジェクトが終盤に差し掛かるころ。山添くんが自身の病気について度々相談していた元上司に「今の会社でもう少し頑張ってみます」と告げるシーン。

山添くんが自分の居場所を見つけた場面だった。上司は涙するのだが、私も感動して泣いた(笑)。こんな自分は自分じゃない!自分はまだまだやれる!と自分で自分を苦しめていた山添くんが、今の自分が輝ける場所を見つけて、弱い自分も受け入れたのだった。映画を観れば分かるが、決して諦めではなく、紛れもない彼の成長だった。自分で自分を苦しめてきた過去の私と重ね合わせて、山添くんと一緒に今の私を受け入れているように感じた。
このシーンが私の中で決定的に「ああ、良い映画だ」と思うシーンだった。

好きな場面③

ラストの「夜についてのメモ」
これが良すぎる。全文はどうもパンフレットに書いてあるようなので、詳しくは紹介できないが、とにかく良い言葉なので、何とかして入手してほしい。「夜明け前がいちばん暗い」という言葉、上白石萌音さんの声、全てが優しい。このメモを聞きながら、プラネタリウムの夜空に、これまでの夜明けを思い出す。人生の中で苦しい時間を過ごすこともあるけど、夜は明けるし、暗闇があるからこそ気づいた物事もあるんだ、とガチガチに固まった心がじんわりとほぐされていくようだった。


劇場で映画を観てから数か月経った今でも、苦しい時はこの映画のことを思い出す。
「自分と他人は違うこと」「他人を理解しようとすること」「手を差し伸べること」
自分にも他人にも優しくなりたい、と思った映画だった。


あと、私の好きなポッドキャストで、「夜明けのすべて」がテーマの回がある。
私より少し先輩のOL 2人がカフェで隣から聞こえてくる会話をしてくれるポッドキャスト「ゆとりっ娘たちのたわごと」

友達がカフェで話すように、ドラマや映画のこと、あるときは妄想トーク、あるときは将来について、おしゃべりしてくれる。
夜明けのすべてについても、映画を観たあとの温かい感情をしっかり言語化してくれて、とても良かった。映画を観たあとは、ゆとたわの感想をセットで聞くのがおすすめ。
ゆとたわ愛を語ると長くなってしまうので、また別の機会に!


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