背伸びしながら走っていた
「エンジニアになるためには〜」からはじまる機械力学の授業。
毎度毎度、疑問だった。
果たして私は本当にエンジニアになりたいのか、と。
これが大学2年生のときのこと。
◇◆◇
気づけばわたしはずっとなにかに引っかかっていた。
右も左も分からない、工具の名前も使い方も分からないこの世界
車にも興味はなく、家電のしくみにも興味はなく、
並んでいるのは知らない部品の固有名詞
なんとかできるようになった数学を使いながら
よく分からない文字式と戦う日々
無理して頑張っている。
そんなことは、きっと、ずっと前からわかっていた。
ただ、数学もできなかった私が理系に進めたことが誇りだった。
ロケットを作っていることが誇りだった。
できる自分が誇りだった。
それ以外に、私の価値なんて無いと無意識に思っていたんだ。
◇
器用すぎるところも問題だった。
努力はあまり苦ではない。
成績は上から〇番目
こんなにも数学は嫌いなのに、部品も工具も知らないのに。
◇
そして、「ここに馴染まなきゃならない」という認識が強かった。
男ばかりのこの世界で勝ち抜くには、頭が良くないとダメだ、とさらに勉強にのめり込み、人とは違うなにかを探して、いろんなことに手を付けた。
◇
どんなに勉強ができても、
どんなに人より早く課題が終わっても
どんなにたくさんのことができても
大学の授業やロケットをつくるサークルでの活動は
面白さややりがいはあるけれど、
「何か違う」という違和感が付きまとう。
「本当にこれでよいのか」と。
◇◆◇
そのことに、やっと気づいたんだ。
そしてようやく言葉にできるようになった。
本当はずっと無理して頑張っていた。
この世界に馴染もうと背伸びして、
ONLY 1 になりたくて走ってた。
自分の「憧れの存在」に近づきたかった。
慣れないこと・向いてないことも、全力でやって結果を出した。
自分を飾って、偽って、どうにか乗り越えてきた。
少々無理して頑張った分、その辛さに気づいてしまった。
これ以上は私は憧れに近づけない。本当はそんなこと、とっくの昔に気づいてたんだ。
だからわたしは、背伸びすることをやめることにする。