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大詩人との別れ


“いるかいないか
いないかいるか
いるいるいるか
いっぱいいるか...”
(「いるか」)

小学生の頃、教科書に載っていた詩
国語の授業で読んだあと
頭から離れなくなった。

学校からの帰り道もずっと、
口ずさまずにはいられなかった。

そんな詩に、大人になって再会した。
お気に入りの詩人の詩集を手に取って、ゆっくりゆっくり読み進めていたとき、

「この詩、知ってる...」

一瞬にして、ランドセルを背負って地元のアーケードを歩きながら、ひとりごとのように「いるか」を唱えていたあの日の自分が鮮明に蘇った。

中学生のころ、合唱コンクールの課題曲でだいすきな曲があった。

“この気持ちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって〜”

自分のクラスがどんな曲を歌ったのかは思い出せないのに、先輩たちが歌っていたその曲は、歌詞もメロディーも思い出せる。

歌いたかったのに、多数決で選べなかった「春に」。

大人になって再会した、
だいすきな谷川俊太郎さんの詩集の中で。

普通に読めなかった。
だって「春に」にはメロディーがあったから。
頭の中で
先輩たちの大合唱が
大きな波となって押し寄せて、
わたしはあの音楽ホールにいた。

詩が何かもわからなかった7さいのわたし。
詩の読み方がわからなかった14歳のわたし。
そして30歳のわたし。


7さいと14歳と今
谷川俊太郎さんの詩が
点と点を結んで
線となって
詩を読むことが好きなわたしの今につながっている。

そんな、わたしにとって特別な詩人、
谷川俊太郎さんが亡くなった。

会ったことはもちろんないから、
実感なんて芽生えないけれど、
言いようのない寂しさみたいなものが
うねうねと頭の中を泳いでいる。


でも、わたしの手元には、わたしの本棚には、
谷川俊太郎さんの詩集やエッセイがたくさんある。

読むたびに春の風のような新鮮な風をわたしの心に吹き込んでくれる谷川俊太郎さんのことばが、これからもきっとわたしをあたためてくれるだろう。

そしていつか、わたしが母となる機会に恵まれたら、
谷川俊太郎さんの絵本を、詩を、「いるか」を、
たくさん読みきかせたい。

ありがとう、谷川俊太郎さん。

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