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ハズレモノ

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ピンク。緑。オレンジ。カラフルな絵たちが並ぶお絵描きの中で、わたしの愛する子が描く真っ黒な絵はポツンと浮いていて、ハズレモノだった。
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#短編小説

ハズレモノ   完

ハズレモノ   完

壁から剥がれ落ちた楽しい画用紙のお絵描きを黒いグルグルが汚していく。せっかく綺麗にお花が咲いていたのに。せっかく綺麗に蝶々が飛んでいたのに。せっかく楽しそうにわたしとママとパパが笑っていたのに。
全てを水で流すという表現を大人になって知った。でも、そんな透明で綺麗なもので消せるはずなんてないんだ。掌を丸くして、折れるほど力を入れて綺麗なものを汚して汚して全部を見えなくしなきゃ。
「あけみ!何してる

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ハズレモノ  2

ハズレモノ  2

「ねぇ、ママ。あれ、綺麗だね」ソウタの指の先には、レジを通り抜けた入り口にある花屋の店先の色とりどりの花たちがあった。
それぞれが違う色みで少しずつ違う形の個性を持っている。こっちのアジサイは紫っぽくて、あっちのアジサイは白やピンクで出来ている。
「いらっしゃいませ。どれになさいますか。」
気づけば、ソウタの手を握りながら、思わず花たちの前で立ちつくしていた。
「ソウタ、どれがいい?」目を輝かせな

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ハズレモノ     1

ハズレモノ     1

教室のいちばん後ろに飾られた、色とりどりの個性の中で、いつも必ずひとつだけ真っ黒な絵があった。
その絵を見る度にわたしの心には台風の前のような暗い色の不穏な雲がもくもくと湧き上がってきた。
どうして。どうしてこの子はいつもそんな絵しか書かないの。休みの日には出来るだけ公園へ連れて行ったり、家の小さなベランダでは一緒に植木鉢の花だって育てている。
それなのに、どうして毎回決まって真っ黒な絵しか書かな

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