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春雪が赤を濯ぐ
こんばんは。
木瓜です。
私事ですが、最近流浪の月という小説を読んでいます。
まだ前半までですが、繊細な心理描写と相関図がとても魅力的な作品ですね。
自分の好みに刺さる、という事もあり、以前書いた春雪に関する詩と相俟って、創作意欲が刺激されます。
今回投稿するのは、その流浪の月という作品と、自身が書いた春雪に関する詩に刺激を受けながら書いた作品の導入部分となります。
現在、鋭意制作中の作品となります。
以下、『春雪が赤を濯ぐ』のプロローグとなります。
プロローグ
甘ったるい香りが、喉に詰まる。
汗で揮発したそれは、睡蓮の、石鹸みたいに爽やかな香りと混ざって、頭がくらくらする程に気持ちが悪い。
喧しいサイレン音が、辺りに響く。
今日も、何処かで、誰かが、命を散らした。
「…、思ったより、華奢なんだな」
仰向けで横たわる私の首を、両手で優しく締め付けながら、男がぽつりと呟く。
「まあね。これでも、結構気を遣ってるんだ」
そんな彼に、私は苦笑と共に、言葉を返した。
「……、ねえ」
「何だ」
「どうして、なのかな」
とりあえず、今の状況に至った訳を、彼に尋ねてみる。
動機。
それは、私にとって、重要な事だ。
「………、愛しているからだ」
長い逡巡の後、彼は淡々と、そう答えた。
捻りも、飾り気もない。
至極単純で、明快な一言。
「…そっか」
彼の言葉に、今度は声を出して笑った。
勿論、軽くではあるけれど、首を締め付けられている訳だから、実際には笑みを浮かべただけで、笑い声までは出していない。
だが、気分的には、声を上げながら笑っていた。
「それなら、仕方ないね」
彼の両手に、私の両手を、そっと添える。
その瞬間、初めて、彼の目に動揺が走った。
ー悪くない。
満ち足りた気持ちの中、ガラス越しに映る、純白の雪化粧を施した桜の木を、視界の端が捉える。
春雪。
それは、情緒を狂わした季節が魅せる、不可思議な景色。
そして、私も同じ様に、
きっと、何処かが、狂っている。