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023【書くことで救われる】

人は誰しも、心の中に、何か叶わなかったことが一つはある。
二度と戻ることのない理想の場所がある。
そんなとき、書くことで、そうした理想を、自分自身に都合のよい事実として言い聞かせることで、自分を必死に保とうとする。そうでもしないと、壊れてしまうから。一番輝いていた自分のことを話すことで、心の中に募った悔しさ、後悔を、自分の中で納得させるために。
周りから見れば、自慢や愚痴に聞こえるかもしれない。けれども、人は、書くことで、話すことで救われていく。

叶わなかった夢があるから、映画を見る。芝居に興じる。本を読む。そして、人生を楽しもうとする。やがて、書きたくなる。いま、この瞬間に思っていること、感じていることを書かなければ、心が死んでしまうから。自分の内なる苦しさや辛さ、悲しさを、自分の外に出すことで、他人事として冷静に向き合うことが出来るから。そして、書いたものを人に読まれることで、それは、過去になる。自分の内面を、インターネットに公開して批判を浴びたり、知らない人に評価されたり、さらに自分を傷つける行為を通して、ようやく、思い出になっていく。自分自身、ばかだと思うこうした行為を繰り返さないと、過去として、整理することができない。

誰かに話したり、書いたりして、自分の内なる感情を聞いてもらったり、読んでもらったりして、何度も非難されて、傷つけられていくうちに、痛みは、だんだん麻痺していく。いつまでも、感情を自分の手元に抱えてしまうと、それはずっと熱くて、重いまま、ぼくの中から出て行こうとしない。あんなに愛した人との内情も、書いて、読まれて、ゆっくりとかさぶたのようになり、やがて治っていく。よくよく見つめてみれば、どこにでもよくあることなのだ。いつまでも自分の手元に持ち続け、特別扱いするから、心が壊れてしまうのだ。

どこにでもある、よくあることなのに。

過去のぼくから、いまのぼくに向けて。もういい加減立ち直れというメッセージが来てる。もう永遠に叶うことのない思いを、自分でもうざいのは承知で、書き綴りたくなる。書く目的何て、こんなこと以外にあろうはずがない。書くことで救われる。読まれてそれは過去になる。

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