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第13橋 くしもと大橋(和歌山県) |吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」

「橋」を渡れば世界が変わる。渡った先にどんな風景が待っているのか、なぜここに橋があるのか。「橋」ほど想像力をかきたてるものはない。——世界90か国以上を旅した旅行作家・吉田友和氏による「橋」をめぐる旅エッセイ。渡りたくてウズウズするお気に入りの橋をめざせ!!


南紀の美しい風景に溶け込む
素朴なたたずまいの白い橋

 トルコがメディアなどで紹介される際に、よく言われるのが「親日的な国」というもの。人によっても感じ方は違いそうだけれど、少なくとも筆者自身も「トルコ=親日」という説に納得できるものがある。現地を旅する中で、日本人へ対する温かい視線をたびたび感じたのだ。

 なぜいきなりトルコの話をし始めたのかというと、今回の旅のテーマがトルコだから。正確には、トルコにゆかりのあるスポットを訪問した。場所は和歌山県の最南端、串本町。和歌山県だけでなく、本州の最南端でもある。

 エルトゥールル号遭難事件をご存じだろうか。1890年、日本を訪れたトルコの親善使節を乗せた船が紀伊大島沖で台風に襲われ岩礁に激突、沈没した事件だ。600人近くが死亡あるいは行方不明となったが、地元の人たちの献身的な救助活動により69人が生還した。トルコと日本の絆を深めるきっかけとなった、歴史上の事件の舞台がここ串本町なのだ。

串本町に入ってすぐのところで「ナザール・ボンジュウ」がお出迎え。
トルコ土産としておなじみの「目玉のお守り」だ。


 羽田から南紀白浜空港に飛び、レンタカーで紀伊半島を南下していった。目指す紀伊大島へは、いまでは橋が架かり、車で簡単にアクセスできるようになっている。そして、その橋こそが、この旅最大のお目当てでもあった。

 その名も、「くしもと大橋」という。開通したのは1999年。道は紀伊大島と本土との間にある苗我島みょうがじまを経由する形で繋がっていて、苗我島でループ橋をぐるりと回りながら高度を上げ、そこからアーチ橋を渡って紀伊大島に入る。ループ橋とアーチ橋の二段構えの橋になっているのがユニークだ。

本州最南端の青い海と白い橋の組み合わせは、いつまでも眺めていたくなる美しさ。


 ループ橋が386メートル、アーチ橋が290メートル。とりたてて長い橋ではないものの、アーチ橋はすぐ下を船舶が航行できるだけの高さがある。片側だけだが歩道もあって、見晴らしが素晴らしいのでぜひ歩いて堪能したい。

アクセスするなら車が必須だが、橋自体は徒歩でものんびり渡りたい。


 橋を渡ってすぐのところに駐車場が用意されている。トイレや展望台もあるので、ここに車を停めて橋を撮ったり、渡ったりするのがおすすめだ。訪れたときには、奥の方にテントを立ててキャンプしている人がいた。絶景の野営地という感じなので羨ましくなった。

 紀伊大島の先端、樫野崎にはエルトゥールル号の慰霊碑が立つ。そのすぐそばに、事件をいまに伝えるトルコ記念館も設置され、観光名所となっている。橋を渡った後は、それらトルコ関連スポットに立ち寄った。

 赤地に白い月と星のトルコ国旗がはためくスクエアな建物が立っていて、それがトルコ記念館だった。小さなミュージアムだがなかなか見ごたえがあって、エルトゥールル号遭難事件のあらましに加えて、トルコと日本のこれまでの歩みが理解できる展示内容になっている。

トルコの旅を思い出しながらトルコ記念館を見学した。
慰霊碑はトルコの資金で建立されたという。


 両国の親密な関係を伝えるエピソードとしては、もう1つ逸話がある。1985年、イラン・イラク戦争の真っ最中のことだ。イラクのフセイン大統領(当時)が「いまから48時間以降、イラン上空を飛ぶ飛行機はすべて撃墜する」と発表。日本政府の対応が遅れ、イラン在住日本人が取り残されてしまったのを、トルコ政府が救援機を出して助けてくれた。

 トルコ記念館の近くには、遭難事件の慰霊碑も立っている。見るからに異国感が漂う大きなモニュメントに哀悼の意を表して、現場を後にしたのだった。

船がまさに激突したであろう岩が、案内板で示されていてなんだか生々しい。


 帰路も再び、くしもと大橋を渡る。橋の北側からは、風光明媚な串本湾が一望できる。水面に巨大な丸い枠のようなものがいくつも浮かんでいるのが気になった。周囲を漁船らしき船が行きかっている。なんと、マグロの養殖場らしい。

 串本は、世界で初めてマグロの完全養殖に成功した地なのだという。手がけたのは近畿大学水産研究所である。なるほど、「近大マグロ」はここで生まれたわけだ。

くしもと大橋からマグロの養殖場を望む。円形の構造物が一際目を引く。


 ということは、この日のランチはもちろんマグロ一択であろう。橋を本土側に渡ってすぐのところに道の駅のような施設がある。店内からはマグロの養殖場と、その先にくしもと大橋の雄姿が一望できる。鮪丼定食を注文したら、大ぶりのマグロがたっぷり載っていた。本州最南端で美しい橋を眺めながら味わうマグロはなんとも贅沢だ。

今回立ち寄ったのは「水門まつり」というお店。鮪丼定食は2,200円だった。






吉田友和
1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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