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piccolotakamura
【#贈りnote】気づきをくれた貴方へ
19歳の短大生だった。
人生で初めて受けたバイトの面接に落ち、次のところではあっさりと採用された。福岡天神地下街にあるコーヒーショップ。正社員は男性4人。ひとりの社員からモーレツな嫌がらせを受けたけれど、他の社員からは不思議と可愛がられた。昭和60年代のあの頃、セクハラ・パワハラは今以上に日常的で、1日で辞める子も多かった。
最初に与えられた仕事はホールの清掃。当時店内での喫煙は当たり前で、毎日霞むほど煙が充満していた。吸殻を捨て、綺麗な灰皿と取り替える。セルフ用の水、グラスもセットする。店内の隅に立ったままホールを見渡し、テーブルを綺麗にしていく単純作業が案外好きだった。
ただ、地下鉄駅構内にいる初老のホームレスが、水をただ飲みに来ることが嫌でしょうがなかった。男は毎日やってくる。店のグラスを使って2杯、3杯と飲んでさっさと出て行く。何か注文することは一度もなかった。嫌な臭いも漂ってくる。断ったほうがいいかもしれないけれど、言い出す勇気なんてあるはずもなく。
ある日の午後。
その男は駅構内に座り込んで本を読んでいた。ブックカバーがなかったので岩波文庫ということだけはわかった。
真剣に読んでいる横顔に知性を感じ、到底勝てないと思った。
時を経て、天神地下街は延長されて華やかになった。
その一方でホームレスの人達はどこかへ消えた。
あの人ももういない。
だけど大切なことを学んだあの場所は今も残っている。
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