さよならジーニアス
とうとう終わってしまった。
去年から...
いや、たぶんもっと前からその兆しはあって
別れの予感は薄々感じていた。
突然、ピっと光を放ったかと思ったら
うんともすんとも言わなくなった。
力尽きてしまったように。
心の準備はしていたものの
やっぱり寂しかった。
私よりも先にこのキッチンの隅っこを陣取っていた
パナソニック製の電子レンジ。
あだ名はジーニアス
今どきレアなターンテーブル式。
1000ワットという強力なパワーで
一気に食べ物を温めてくれた。
そばに立っていると
電磁波のようなものをビンビンに感じるくらい
彼は力強かった。
だんだんと動きが鈍くなってきてからは
鍋やフライパンで暖め
心の準備をしてきた。
ジーニアスの代わりは
このキッチンにはもういらない。
彼は最初で最後の
特別な存在。
新しい暖め方に慣れてきた。
その頃合いを見計らったように
ジーニアスは動きを止めた。
最期の輝きをパッと放った瞬間、
私達は彼のそばに居た。
その輝きが、
お別れの合図だった。
市の回収業者がやってきた。
ガタン、ゴトン
回収トラックに投げ込まれるその音が
リビングに響いた。
さよなら、ジーニアス
今までありがとう。
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