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ねむれ巴里

 パリでオリンピックが始まる。

 3年前の東京オリンピックはいつの間にか始まっていた。ちょうどALSと診断された年で、少しずつ体が変わり始めた頃だった。マラソンだけテレビ観戦した。ほかの競技や開会式は全く観ていない。しかもマラソンの会場は札幌だったので、東京で行われているオリンピックを観ていない。なので私の中の東京オリンピックはあったような、なかったような、かげろうみたいな存在だ。

 パリオリンピックはセーヌ川に浮かべた舟に選手たちを乗せて始まるという。それこそかげろうみたいだ。開会式は日本時間午前2時半から。毎夜眠りながら聴いているラジオ深夜便のチャンネルで生中継される。セーヌ川を流れ行く選手たちの様子を聴いていたら、老人ホームのベッドもどんぶらことパリへ流れつき、よく眠れそうだ。

 学生の頃、金子光晴の『ねむれ巴里』を書店でもとめたとき、レジの店員さんは
「この三部作いいですよねー」
 と言いながらカバーをかけてくれた。

 本好きの店員さんがいる書店は閉店し、私はページをめくれなくなり、本の内容はほとんど忘れてしまった。電子版を買って、パリオリンピックを聴きながら読み返したい。

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