40:話し上手
変化のスピードは必ずしも一定じゃない。
だが、変化のきっかけはいつも一瞬だったりする。
僕は話下手であった。
小学生、
彼らは悪口を使って、コミュニケーションを図る。
ばか、しね、きも、うざ。
簡単だからだ。
それを一つの標的に向けて放ち、
自分たちは最高のナイスガイになる。
僕はその悪口の対象でも、悪口を言う人でもなかった。
「そんな汚い言葉をお友達に向けちゃいけません!」
僕は母の言葉を信じ、人を傷つけることをしなかった。
同級生は、そんな僕に『つまらないやつ』のレッテルを貼り付けた。
乏しい語彙力と浅い頭。
僕はまだ、話が下手だった。
そして、つまらないやつは、中学生になった。
いじられるようになったのだ。段々と。
芋虫を入れられる、水筒を飲まれる。
僕はそれに怒った。
怒る機会を得たのだ。
いじられるという大義名分を引っ提げて、
僕は怒れるようになった。
本当は不本意だった。
こんな形でいたくない、心からそう思っていた。
異型のハニワは、空っぽであった。
僕はまだ、話せない。
そして、ハニワは高校生に。
初めてできた彼女、嬉しかった。
緊張した、僕は話せなかったのだ。
自分から想いを伝えた手前、話す術を未だ知らない。
何ヶ月もしないうちに、彼女から告げられた別れ言葉。
「沈黙がしんどい」と。
沈黙それは、1人でいること。
その聖域に彼女を入れたくなかったのかもしれない。
歩み寄り方を知らなかったのかもしれない。
僕は未だ、話せない。
空のキャンバスに色を塗るべく、来た大学。
変化は2つ、突然現れた。
無情なひとり状態。
孤独が僕を襲った。
それは心地よさがあった。
話せない僕を守る6畳の箱。
自分との対話、家族と何気にしていた
戯言の会話ですらないこの状況は、
自分を見つめ直すには十分すぎた。
しかし、大学3年生。
あれがきた。
これまた一瞬であった。
あれは人を離し、遠ざけ、
全世界に孤独を撒き散らした。
各言う僕もその中で過ごすことになった。
日々自問自答し、この人生のあり方を
解き明かそうと、もがいた。
今思う、道に決まりはないけれど
それは無のうち、なくすことあり。
自分ととにかく話した。
壁に向かって独り言を放った。
ラジオの配信まで始めた。
…。
人と話したくなった。
突然来た想定外の二つのきっかけ。
図らず僕はいつの間にか話せるようになった。
とにかくなんでも話したくなった。
部屋で起きたこと、新作スイーツの感想。
自炊メニューの考案。
そして、過去のエピソードの言語化。
思い出を説明できるようになると、
その当時の状況をはっきりと思い出せた。
言葉が広がり、思い出が引き出され、繋がり、
そしてこんなふうに、描けるようになった。
そして不思議なことに、自分のことを知るようになると、
他人に対する興味が出てきたのだ。
自分の言語化ができたから、今度は君のことを聞かせて。
むしろ自分のことより、他人がどう考えているのかに興味を持つようになったのだ。
とても不思議でなんだか幸せだった。
僕は話せるようになったが、そんなことどうでも良くなったのだ。
僕は今も変化している。
徐々に確実に、小さなきっかけから無意識に、