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【モノの図書館事例紹介】バークレー公共図書館
こんにちは。モノの図書館研究所の佐藤です。
今回はモノの図書館の中でも歴史が長く、モノの図書館の前身となった「道具の図書館」として代表されるバークレー公共図書館を紹介します。
バークレー公共図書館 Tool Lending Library
バークレー公共図書館とは
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バークレー公共図書館(Berkeley Public Library)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー市にある地域図書館で、1893年に設立されました。地域住民の教育、情報提供、文化的交流を目的とし、バークレー市内に5つの支部を展開しています。中央図書館はダウンタウンの目抜き通りに位置し、歴史的なアールデコ調の建物が特徴です。幅広い書籍や電子資料を提供するだけでなく、地元の歴史やアート、文学に関する特別コレクションも所蔵しています。さらに、住民が利用できる「ライブラリー・オブ・シングス(Library of Things)」も導入しており、工具や楽器、家電製品など多様なアイテムを貸し出しています。プログラムとしては、子ども向けの読み聞かせ、成人向けの教育ワークショップ、コミュニティイベントなどが開催され、多文化的な都市のニーズに応えています。市民参加型の運営を重視し、地元住民からの寄付やボランティア活動も活発です。(chatGPTにより)
助成金をきっかけに開始。初めは低所得者には無料、その他の住民には有料で貸し出していたが
この図書館のケースで興味深いのは、LoTの展開の経緯です。1979年に連邦助成金を獲得して始めたLoTでしたが、初めは助成金の縛りにより、低所得者には無料、その他の住民には一定の利用料(0.5ドル〜3ドル)を課していました。しかし、1988年に行われた図書館区の住民投票により、このサービスを固有の図書館サービスとして位置付け、誰でも無料でサービスを受けられるものにしたのです!高い住民ニーズがあったということですね。*1
今では3,500以上の道具をストック。開館時間も拡大し、週6日開館
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当初は移動型のトレーラーに収容してスタートしたこのプロジェクトは、当時は約500個のツールと1名のフルタイム従業員で始まったようです。上記のように、住民投票を通じてすべての住民が使えるようになったこともあり、2012年には約3,500個以上の工具を保管し、2019年には週6日の営業に拡大しました。
DIYワークショップを頻繁に開催
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バークレー公共図書館の道具図書館では、ガーデニングや家のメンテナンス、その他のDIYプロジェクトに関するワークショップを頻繁に開催しています。最もリクエストの多いアイテムは、除草機、延長コード、生垣バリカン、解体用ハンマー、電動配管掃除機。貸し出し期間は、アイテムに応じて3日〜7日間。確かに、このような道具は自宅にあれば便利ですが、かといって年間でも数回しか使用しないような道具なので、モノの図書館の道具としては適しているように思います。ここで他のモノの図書館との比較で気になった点としては、バークレー公共図書館ではガソリン駆動や火薬作動型の工具は取り扱っていないとのこと。ここは民間のコミュニティが行うLoTと異なる点かもしれません。例えば日本の神奈川県でテスト的に実施された「たまプラ・コネクト」のモノの図書館では、発電機の貸し出しが行われていました。それも、最も貸し出し頻度が高かったとのこと。この辺りの道具の選定の匙加減は、組織のポリシーやリスクテイクの度合いにもよるのかもしれません。
主な利用の目的は、家庭でのメンテナンス、仕事に必要な道具として
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Jonas(2015)*2は、バークレー公共図書館の道具サービスに関して、どのような利用がされているかの調査を行っている。利用者の主な利用の目的は、家庭でのメンテナンスや仕事(不動産業や便利屋、大工、配管工など)に必要な道具としての借り入れとのことである。また、借りるか買うかの判断は、自宅などのストレージ容量、費用というリソース要因と、道具の性能や使用頻度といったユーティリティ要因で比較し判断されると考察している。更に、バークレー公共図書館の道具サービスでは、自分がしたいことに対する適した道具の提案や、購入に対するアドバイスも行っており、利用者にとって都合の良い場所になっている。
住民からの強い感謝の念。コミュニティとしての価値
Jonas(2015)*2の調査で興味深かったのは、回答者からの強い感謝の念である。Jonas(2015)*2は、バークレー公共図書館の常連客22名に対し、2011-2012年にかけて半構造化インタビューを行っている。インタビューの結果、参加者の意見の共通点として、強い賞賛と感謝があると結論づけている。「これは私が遭 遇した中で最も有益なプログラムのひとつです」「私はこのプログラムに深く感謝しています。私の仕事を何度も可能にしてくれました」「道具を貸してくれたおかげで、 仕事を得ることができました」このようなコメントが多数見受けられる。
また、Jonas(2015)*2は道具図書館が、近所同士での生活改善を促すきっかけになり、自営業者への道具の提供や技術の習得に繋げられるなどの点で、持続可能なコミュニティを支えるものだと結論づけている。
このように、半世紀以上続くバークレー公共図書館の道具図書館は住民生活に根付き、住民生活を支えるインフラになりつつある。これはまさにモノの図書館が求める形態であると言える。
実はこのような道具図書館の形態は、アメリカ国内には多数存在している。
カリフォルニア州のサクラメント図書館やオレゴン州のヒルズボロ公共図書館がその代表的な例である。次回以降、これらの事例も紹介していく。
*2 Jonas Söderholm,Borrowing tools from the public library