寧静|石川・能登半島
どっしりとした二階建て。
玄関だけでも住めるほど広い。
中央の階段、床、天井、太い柱。
赤みがかった木肌は、どこもかしこもつやつやと光っている。
まるでお寺のような仏間に座敷。
家の裏手は林だ。
木々に囲まれた空間は、夏でもひんやりと涼しい。
「この木はヒバ?」
「アテの木と言うんよ。うちの家もぜーんぶアテ」
そう言うと、お母さんは木の幹を撫でた。
私もさわってみる。
ゴツゴツした幹に抱きついて深呼吸する。
春は山菜採り、夏は祭、秋は稲刈り、冬は雪。
限界集落の村は温かく迎え入れてくれ、街中でしか暮らしたことがなく「田舎」がない私は、すっかり能登に魅了された。
仕事がなくてもプライベートで遊びに行った。
お言葉に甘えて、夫婦で泊めてもらったりもした。
夜はお酒を酌み交わす。
そして帰る前には必ずアテの林に向かう。
深呼吸するために。ここを忘れないために。
「寧静」(ねいせい)・・・世の中が平穏なこと。心が安らかで落ち着いていること。