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初めて自分の書いたものが活字になった時はうれしかったな。あの喜びを忘れずに。 こちらで…

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初めて自分の書いたものが活字になった時はうれしかったな。あの喜びを忘れずに。 こちらでは小説、エッセイを綴ります。

マガジン

  • ガチャガチャで始まる朝。

最近の記事

卒業文集が届きました。

立春がすぎて、暦の上ではもう春ですね。 しばらくこちらはお休みしていました。 ポプラ社さんとnoteの共催コンテスト「こんな学校あったらいいな」を知り、小学生向けの短編をいくつか書いたのは夏のこと。 そのうちのひとつ「給食で世界旅行!」が編集部賞をいただきました。 記念品の「卒業文集」が今日、届きました! グリーンがかった紙の感じ、金箔押し、これぞ、ザ・卒業文集! 審査員長 久住昌之先生(孤独のグルメの原作者さんですね)の講評、ポプラ社の方のコメント、そして、久住先生の

    • R教授の祝いの言葉|番外編・旅する日本語全部盛り

      改めて結婚おめでとう。 僕は最初からピンときてたよ。 幹彦と美希、名前も見た目も已己巳己な君ら、袖摺れになるのは時間の問題やと思てた。 ゼミ合宿の時には、その萌芽はあったな。 7年の間には色々あったやろうけど、ずっと美希さん一筋とは生一本な井駒君らしい。 これで正真正銘のイコミキ夫婦やな。末長く睦び合うんやで。 今日のこの色節に、教え子が集まったのも嬉しい事やなあ。 お、山田君は熊本から駆けつけたんか。どうや、最近? え、離婚した?なんや、こんなめでたい席で。 でも、仲間

      • 旅する日本語、11の物語。

        面白そう!とチャレンジしてみた#旅する日本語コンテスト。 今日、11番目、最後の物語を書き上げました。 400字という制限と「旅にまつわる美しい日本語」を入れて文章を書くというのは、なかなか難しくもあったのですが、同時に言葉の持つイメージを膨らませて文章を綴る楽しさもありました。 お題の単語は、普段の会話ではあまり登場しない言葉が多く、本文中に自然に織り込むには、と当初は苦心したのですが、タイトルに入っていれば良い、ということがわかって、ぐんと書きやすくなりました。 そ

        • 萌芽|鹿児島県・種子島

          星、星、星。 僕は圧倒されていた。 空を埋め尽くす星。 今にもこぼれ落ちそうで、僕は思わず両手を広げた。 小学4年生の冬休み。 父さんが、どうしても種子島宇宙センターを見学したい、と言い出して、種子島に行くことになった。 天に向かって伸びる巨大な発射場には圧倒されたし、展示も面白かったのだけれど、何より僕の心を捉えたのは、夜の星だった。 宿の人に教えてもらって、〈星空日本一〉になった場所にやってきた。 周りにはなーんにもない、サトウキビ畑。 父さんが車のライトを消した途

        卒業文集が届きました。

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        • ガチャガチャで始まる朝。
          5本

        記事

          夫婦の形|三重・二見浦

          「後ろから見ると、CMに出てくる仲のいい老夫婦みたいやね」 「そやな」 母が父の腕に手を回し、並んで歩いている。 私と夫は、こっそりそんな言葉を交わした。 両親が腕を組んで歩く姿など、これまで見たことがなかった。 いや、そういうこともあったのだろうが、子供の前では照れくさかったのかもしれない。 緑内障を患った父は、だんだんと目が見えづらくなり、車を手放した。 好きなゴルフもできなくなった。 旅行にも行かなくなった。 「お伊勢さんに行くけど、一緒にどう?」って誘ってみたけ

          夫婦の形|三重・二見浦

          造りたい酒|福島・会津

          「修業先から蔵に戻ってすぐに父が急逝してしまいまして……長年の赤字続きを目の当たりにし、廃業も考えました」 そう言って、彼はふっと息をついた。 そんな時、母と息子が奮闘する、この会津の小さな蔵がテレビで紹介された。 それを見た酒販店が、応援するからうまい酒を造れと連絡をくれたのだ。 「何度も試行錯誤して、これだと思った酒を送ったところ、売ってみましょうと」 それが大ブレイクし、入手困難な酒として知られるようになった。 どんなお酒を目指していますか、との問いに、彼は少し考え

          造りたい酒|福島・会津

          福岡から、愛|東京・銀座

          「あんたには気散じが必要と。行ってきんしゃい」 「でも」 「よかよか。そんために来よるんよ」 お義母さんはにーっと笑った。 娘が生まれて半年。不妊治療の末にやっと授かった子だ。 嬉しくて仕方なかったのに、毎晩の夜泣きにすっかり参っていた。 制度はあっても実際に休む人は少ない、と夫はほんの数日大騒ぎして「育児より仕事の方が楽」と父親になる前の生活に戻ってしまった。 そう認めただけでも育休の意味はあったかもしれない。 久しぶりの一人での外出。 12月の銀座。 一歩ごとに申し

          福岡から、愛|東京・銀座

          寧静|石川・能登半島

          どっしりとした二階建て。 玄関だけでも住めるほど広い。 中央の階段、床、天井、太い柱。 赤みがかった木肌は、どこもかしこもつやつやと光っている。 まるでお寺のような仏間に座敷。 家の裏手は林だ。 木々に囲まれた空間は、夏でもひんやりと涼しい。 「この木はヒバ?」 「アテの木と言うんよ。うちの家もぜーんぶアテ」 そう言うと、お母さんは木の幹を撫でた。 私もさわってみる。 ゴツゴツした幹に抱きついて深呼吸する。 春は山菜採り、夏は祭、秋は稲刈り、冬は雪。 限界集落の村は温かく

          寧静|石川・能登半島

          京都の鰻|京都・洛北

          大きく染め抜かれた鰻の文字。 20代の小娘には敷居が高い店ではあったが、思い切って暖簾をくぐった。 「おこしやす」 高い天井に民芸調の照明、どっしりとした階段に見覚えがあった。 「やっぱり、ここだわ」 私のつぶやきに女将が問う。 「以前おこしやしたことが?」 「子供の頃に、祖父に連れられて。あの、予約してないんですけど……」 「ちょっとお待ち下さいね。今、お席ご用意しますさかいに」 座敷で頂くうな重は立派で、それはそれは美味しかった。お値段も立派だったけど。 翌日、入院

          京都の鰻|京都・洛北

          已己巳己|大阪・箕面

          「ピンとくる達磨さんを選んで下さいね」 そう言われてもねえ。 ずらりと並んだ達磨は、どれも同じに見える。 今朝、羽田で待ち合わせたリサとユミと私は、飛行機と電車とバスを乗り継いで、この達磨で有名な寺にやってきた。 「お礼参りに行こうと思うの」 結婚が決まったリサの言葉に、ユミと私は大阪行きのお供を申し出たのだった。 達磨に〈今年中に結婚できますように〉と書いたら叶ったというのだから。 それにしても私達、気が合うにもほどがある。 恋愛運がアップする、そんな噂を信じて赤いコ

          已己巳己|大阪・箕面

          うりずんの頃|沖縄

          空港を出ると、もわんとした空気が身体をつつむ。 かすかに雨の匂い。 3月末で10年勤めた会社を辞めた。 次のことはまだ決められないまま、沖縄にやってきた。 時間に縛られない、あてのないひとり旅。 急にパラパラと雨が降ってきて、近くのお店に飛び込む。 「いらっしゃいませ」 ふわり、爽やかな香りが鼻をくすぐる。 「いい香りですね」 「サンニン、月桃のアロマオイルです。ちょうど花が咲き始めて」 母ぐらいの年の女性が、にっこり微笑んで、窓の外を指差した。 細長い緑の葉の間に、鈴な

          うりずんの頃|沖縄

          弥立つ|青森

          「会社辞めていいかな……」 驚くぐらい冷静に、うん、と頷いていた。 こんな日が来ることを、私はどこかで予感していたのだ。 子育ての合間にパートに出ていた私は、親戚の会社の事務員にしてもらった。 あれから4度目の夏。 夫が手がけたねぶたが、今日、青森の街を運行する。 子供の頃から暇さえあれば、ねぶた小屋に入り浸っていた夫。 ねぶた師になりたいという夢は、何度も壁に阻まれた。 明確なルートはなく、ねぶた制作だけでは食べていけない。 東京の大学を出て、ねぶたに携わっていたいと

          弥立つ|青森

          多生の縁|奈良

          次の便に乗れたら。 祈るような気持ちで搭乗口に走る。 母が倒れた、と連絡があったのは、今朝のことだった。 「もう、薫ちゃんたら、大袈裟なんやから」 ベッドの上の母は、私の「最悪の想定」があほらしくなるほど元気だった。 「ママ!薫さんがすぐに救急車呼んでくれたからよかったものの……びっくりしたんやから」 「まあまあ、彩ちゃん、ええやんか。お母さん、無事で何より」 薫さんは、家から持ってきた母の老眼鏡や保険証を枕元の棚に入れた。 薫さんは兄のお嫁さんだ。和菓子屋にお嫁入りして

          多生の縁|奈良

          まっすぐな味|香川・小豆島

          小さなバスを降り、ジリジリと刺すような日差しの下を歩く。 (ああ、帽子、かぶってくればよかった) 羽田空港のショップで一目惚れした、つばの広いラフィアハット。 フェリーで島に降りたったら、なんだか気恥ずかしくなって、ホテルに置いてきてしまったのだ。 川沿いの道から、住宅街の細い路地に入る。 (本当にこの道なのかな) 心細さがどんどん膨らんで、こらえきれずに汗になって、背中の真ん中をつつつ、と流れた。 心許なさを抱えて歩く私の目に、小さな看板の文字が飛び込んできた。 〈醤油蔵

          まっすぐな味|香川・小豆島

          【よみがえる遺産】バトンをあなたへ。

          チェーンナーさんが発案された【よみがえる遺産】というバトンがnoteでぐるぐるリレーされています。 【よみがえる遺産】というのは、過去に一番多く読まれたあなたの記事を教えてください、というもの。 私のところにもこのバトンが回ってきました。 バトンのルールはこちらになります。 ・5日以内に記事を作成。 ・「【よみがえる遺産】(一番読まれたnoteのタイトル)」 ・自身のダッシュボードのスクショを貼る。(任意) ・今までに一番読まれたnoteの紹介。 ・最後にハッシュタグ 「

          【よみがえる遺産】バトンをあなたへ。

          #こんな学校あったらいいな、編集部賞をいただきました。

          noteを始めたのは、自粛中だったから。 以前、おすすめいただき登録はしたものの使いあぐねて、その後、友人のサークルに入るために再度登録して。 本格的に書き始めたのは、4月に入ってからでした。 使い始めて、noteって「クリエイターを育てる」っていうことに力を入れているんだな、ということがわかってきました。 小説やエッセイやイラスト、写真など、自分の「作品」をここで発表している人が多くて、それをいろんな形でnoteが応援している。 そのひとつが「コンテスト」でした。 「#

          #こんな学校あったらいいな、編集部賞をいただきました。