小学生から社会人までロボット制御できる人材を育てたい 土橋電気 土橋弘晃さん
静岡県富士宮市にある有限会社土橋電気 代表取締役社長 土橋弘晃(どばしひろみつ)さんにお話をお聞きしました。土橋電気は自動制御システム設計、シーケンスプログラム設計、制御盤設計・製作や産業用機械配線工事を手掛ける会社です。主に医療機器組立・加工分野に強い会社です。
ーー自己紹介をお願いします。
高校卒業後、地元の電気会社に就職し自動制御システムを担当していました。30歳の時に父が創業した土橋電気に就職しました。父はもともと建築系の電気工事を主体にしていましたが、私は前職の経験をもとに自動制御をやるようになりました。
ーー現在の事業も自動制御が中心ですが、そのきっかけはあったのでしょうか?
私が就職した頃に医療機器メーカー様から「ラインが立ち上がらない」というご相談があり、その解決にお伺いしました。医療機器を生産する工場のラインでしたが、複数の装置の連携がうまくいっておらず、うまく動いていませんでした。私と仲間がその「装置の連携」を解決して回った結果、ラインを立ち上げることができました。装置ごとに別の会社や部署が担当してしまうため、それぞれの装置がうまくつながらなかったのです。
ーーどのような点が難しかったのでしょうか?
前の機械が「この製品を送るよ、そのとき信号出すよ、動いてくださいね」と次の装置に伝えても、途中で製品が止まってしまい送られてこない場合、前の機械は「もう私は製品を送ったよ」となり、後の機械は「もう一度製品を送ってよ」となります。そこでラインが止まってしまい、こういったトラブルになったときにすぐ動かなくなってしまいます。両方の機械でちゃんとやりとりする仕組みをつくらないとトラブルのときにも動くようにならないわけです。そういったことを一つ一つ解決していなければなりません。
ーー人と人とのコミュニケーションと同じですね(笑)
はい、機械どうしもコミュニケーションが大切です。ソフトウェアの担当ですとソフトウェアのことだけ考えがちですが、ハードウェアや機械のこともわかっていないといけません。大手企業では機械を設計した後でソフトだけを外注するケースもあるのですが、機械からソフトまで考えたうえでソフトウェアを開発する必要があります。
ーー社員のみなさんがそのように全体を見ながら開発できるようになるまでにどのようにトレーニングされているのですか?
全社でプログラムを統一化し、誰が作っても同じものができるようにしています。その結果品質が安定しています。ただ、教育プログラムがあるということではなく、現場で社員に教えながら覚えてもらっています。
ーー最近は小学生向けにも教育を展開されているとお聞きしました。
3年前からヒューマンアカデミーのロボット教育を小学生向けに実施しています。内容は小学生向けではありますが、これは大人向けにも同じものが使えると思っています。工場で勤務される方がロボット自動化を覚えることで、自社の効率化や自動化を推進できるようになるのではないかと信じています。そういう取り組みがものづくり大国日本を復活される手助けになると思っています。
ーー大人向けにも展開されるご予定でしょうか?
2022年にテック・アカデミア(土橋電気の教育施設)にて大人向けのロボット教室を開始する予定です(取材は2022年4月)。日本は産業機械がたくさんある国だと思いますが、意外にもPLC(Programmable Logic Controller、工場向けコンピュータ)の教育メニューはあまりありません。ポリテクセンターなどもあるにはありますが、それを受講したからといってすぐ現場でできるわけではありません。社会人向け自動制御講座を3ヶ月メニューで実施したいと考えています。研修を3ヶ月実施すれば、ある程度現場で実践できるレベルになると思います。
ーー小学生と社会人への教育に取り組みたいということですね
将来的には中学高校も含めてつなげていきたいと思っています。小学生・中学生・高校生・社会人までをつなぎ、小中高のみなさんにも現場を見てもらいたいです。ロボットが学生から社会人の人たちが、実際それらを使った工場はどのような現場なのかを見てもらいたいと思っています。そうすれば学生さんが現場にインターンしやすくなると思います。
ーーどうして教育に注力したいのでしょうか?
昔は、残業をたくさんして仕事を覚えるということができました。教育などがなくても現場で失敗しながら覚えることも可能でした。しかし私も仕事のしすぎで体を壊したことがあります。残業しなくてもみんなが仕事を覚えられる仕組みを考えないといけないと思うようになりました。そこから学校をやっていこうと考えたのです。
ソフトウェア開発だけではないと思うのですが、ある程度基礎ができてくると、仕事の時間ではなく、食事中とか車の中などでふと「あ、これはリスクがあるかも」と思いつく瞬間があったりします。そういうふうに頭の中で考えられるような基礎を作れればと考えています。
ーー教育に力を入れておられる中で、ベトナムから人材を採用された背景を教えてください。
当初はベトナムから人材採用するということは全く考えていませんでした。人材募集を行なっても、なかなか入社してくださる方が見つからず、人材紹介の会社に何社も問い合わせたり、高校や大学にも声をかけましたが、5年経過しても誰からも応募がありませんでした。そのような中、人材募集の告知をご覧になった海外人材紹介の株式会社One Terraceさんからご連絡がありました。お話をお聞きしたところ、一度詳しいことを聞いてみようと思いました。
ーー結果採用された理由は何でしょうか?
ベトナムの方との面接会を設定いただき、15名の方々と面談をさせていただきました。その結果、今弊社に入社してくれたフィーさんがいいと感じましたので、オファーしました。
はきはきとされており、笑顔が良かった、明るかったのが決め手でした。
ーー入社されてどのように感じられましたか?
さきほどインタビューいただいたように仕事を順調に覚えてくれています。会社にも慣れてきているようです。一方で、フィーさんの周りの社員にも良い影響が出ていると思います。聞き方や伝え方をみんなが意識するようになり、フィーさんとだけではなく、これまで以上にコミュニケーションが改善したと思います。
ーーそれ以外の影響はありましたか?
ベトナムから人を採用したことで、社員みんながワクワク感を持った気がします。閉鎖的だった社内が世界に広がった感じがしているのかもしれません。また、将来ベトナムに進出するかもしれない、企業規模を大きくしようとしている、というふうに感じてもらったということもあるのかもしれません。
ーー実際ベトナムに進出しようとお考えでしょうか?
はい、考えています。フィーさんが一人前になった暁には、ベトナムに進出したいと考えています。
――将来に向けて取り組みたいことはありますか?
30歳に入社した頃にやりたいと考えていたことを愚直に推進してきました。これまで推進してきたことはある程度着手できてきたと思います。工場自動化ラインのオンラインメンテナンス事業も考えてきていましたが、それも実現できる環境になってきました。
ーーぜひ、教育事業も、ベトナム進出も、実現できることを楽しみにしております!
編集後記
「当初はベトナムから人材を採用しようと考えていませんでした」という土橋さん、しかし、採用をきっかけに社内の空気も変わっていき、ベトナム進出も構想に入るようになったとのこと。海外からだけではなく国内人材も育成し、次世代のロボット制御・自動制御の技術者を育てていこうとされています。
私が一番印象に残った言葉は以下の言葉でした。
「ベトナムから人を採用したことで、社員みんながワクワク感を持った気がします。」
(ものづくり新聞 編集長 伊藤)