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【短編小説】オートバイのパン屋 Third stage

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毎月1日は小説の日という事で、
今回もつたない小説を投稿いたします。
オートバイのパン屋も三作目になります。
今回は約7000字となります。
お時間のある時にお楽しみください。

今回のテーマ曲は、私が勇気をもらう歌
松任谷由実さんの
<ホライズンを追いかけて>

はじめに

「オートバイのパン屋」を書きだすと、
なぜか泣いてしまい、
なかなか進まないので、
ずっと続編を書けずにいましたが、
そろそろ書かないといけないと思い、
小説に想いを巡らせました。

オートバイのパン屋 Third stage

First stage

Second stage

前回のあらずじ

徹の三回忌を終え、玲子も自分の人生を
踏み出さないといけないと思っていた時。
ワイナリーカンパネラの仕事と巡り会います。
山田オーナーから
ラ・カンパネラを聞かせて育てた
ピノノアールのワインに合うパンを
作ってほしいという依頼があり、
新しいアイデアを盛り込んだパンを作ります。
これには、レストランの鈴木シェフも納得。
ワイナリーのレストランで働く事を
勧められた玲子は、
「私にはまだ早い」とその仕事を断ります。
玲子は、オートバイのパン屋を
続けていくのでした。

さて、今回物語は大きく動くのか?
平凡な日々が続くのか?
トクヤマ自動車の若社長、
賢二との恋は進展していくのか?
相変わらずブルーのタンクの
KAWASAKIに乗る玲子。
今回はどんなストーリーになるのでしょう。

さて、前置きはこのくらいで、
物語を始めてまいりましょう。

探求

「アレクサ、通知を読んで」

<ミズベシャーリングサマヨリ 
 ショウヒンガデキアガッタト
 レンラクガアリマス>

玲子はすぐにミズベシャーリングへ
電話をかけた。

1時間後、青いタンクのKawasakiは
中央道を北に走っていた。
本当は国道20号を
ゆっくりツーリングしたかったが、
玲子は新作のパンを考える時間が欲しくて、
高速を走っていた。

ミズベシャーリングは
鉄板や銅板を加工する、板金製作会社だった。
最近ではオーブンのサイスに合わせた、
天板の加工などもやっているようだった。

玲子はワイナリーカンパネラで
新作パンが認められ、
山田オーナーから電気オーブンを
プレゼントされていた。
山田オーナーがどうしてもお礼がしたいと
言うので、玲子が試してみたかった
水蒸気を入れられる電気オーブンを
お願いしたのだった。
この電気オーブンで新作パンを焼くために、
銅製の天板を発注していた。

玲子は、いつものライダースーツに
ヘルメットで、Kawasakiを走らせていた。
1時間ちょっとでミズシャーリングに着いた。
ミズベシャーリングは諏訪湖のほとりに、
建っていた。
思っていたよりも、広く大きな工場だった。
時々、金属と金属がぶつかりあう音がしていた。

高速を使わなければ2時間30分はかかる。
けれど、
高速で1時間は短縮できたと玲子は思った。
KAWASAKIから降りた玲子は、
工場の隅に事務所と書かれた、建物に入った。

「あのー・・・」

玲子は事務所の中の男性に声をかけた。
男性というより、
おじさんと言ったほうがいいかもしれない。
その男性は玲子を見るなり

「お・・早かったね、オートバイのパン屋さん」

そういって玲子を見て微笑んだ。
緊張していた玲子の表情にも笑みがこぼれた。

「いやー-私もワイナリー
 カンパネラのファンでね・・
 君の作った、Pan de Campanellaに
 合わせたパンも大好きだよ 」

そういって、ミズベシャーリングのおじさんは
名刺を玲子に渡した。

<水辺康平>
<代表取締役社長>
名刺にはそう書かれていた。

「社長さんだったんですね、はじめまして」

玲子は水辺社長に挨拶した。

「はいこれ、銅製の天板、10mmの折り返し
 ついたやつね、もしオーブンに入らなかったら
 作り直すから言ってね」


そういって気さくな感じで、
玲子に天板を渡した。
玲子は代金を払うと、
オートバイのリアボックスに入れてきた、
あんパンを社長へ渡した。

「これ、私が焼いたパンですけど
 皆さんで召し上がってください
 Pan de Campanellaに合わせたパンは
 ワイナリー限定なので、すいません」


「いやいや、いいんだよ、
 でもこんなに沢山いいのかい」


「はい、社員さんが20名程とホームページに
 書いてありましたので、
 30個ほど入っています。
 それに、ミズベシャーリングさんは
 しょうがい者の雇用も積極的にしていると、
 書いてあったので。
 何か私が作った物を
 お渡ししたい気持ちになりまして、
 ご迷惑でなければ、
 皆さんで召し上がってください。」

水辺社長は、まだ話したそうな玲子の言葉を遮り

「なによりの手土産だよ、ありがとう
 みんな喜ぶよ」


そう言って微笑んでくれた。
おじさんだが、少年のように笑う姿と
苦労して会社をここまで築きあげたと思われる
表情に刻まれた皺が印象的だった。


玲子は折角なので、
諏訪湖をKAWASAKIで一周していた。
徹と走った、奥多摩とは違うが、
奥多摩湖の風景と重なって
涙が出そうになった。

その時、道路にボールが転がり出てきた。
玲子はブレーキをフルロック
ギキューというブレーキ音とアスファルトと
タイヤが擦れる音があたりに響いた。
案の定、ボールを追って子供と
父親の姿が見えた。

その時リアタイヤがバタつき、
バランスを崩して転倒した。
幸い対向車は来なかった。
Kawasakiにまた傷がひとつ増えた。

玲子は少し足を打ったが
足早に、KAWASAKIを起こし
路肩に寄せた。

父親が平謝りしている。
救急車を呼ぼうとしているので、
玲子はそれを断った。

時間がほしいから、
わざわざ高速で、ここまで来て、
余裕ができたから、ちょっとだけという
気持ちの甘さに腹がたっていた。
玲子は、Kawasakiを公園の駐車場へ押していく。
ボールを持った女の子が、
心配そうについてくる。
玲子はKAWASAKIを駐車場に
スタンドアップすると

「おねえさんは大丈夫、
 でもボール遊びは気をつけてね」


そういって、女の子の頭をなでてやった。
女の子は

「ごめんなさい」

とう言うと、
父親と一緒に公園の芝生があるほうへ
歩いていった。
玲子は子供と父親の背中をじっとみていた。
自分もいつかあんなふうに
子供ができるのだろうか?
漠然とそんな感情に駆られていた。
徹の面影が湖面から吹いてくる風にのって、
やってきたような気がして、振り向いたが
誰も居なかった。

玲子は公園のベンチで一息ついた。
フルロックからの転倒、
ちょっと情けない転び方だが、
不幸中の幸いという所だろう。
なにより、子供を引かなかったことに、
心をなで下す気持ちだった。
リアボックスにも傷がついたが、中の天板は
無事だった。
けれど、Kawasakiのシフトレバーは曲がり
タンクの傷も怪しい感じだった。
ガソリンは漏れていないようだが、
ちょっと危険を感じた。

よく見ると玲子のライダースーツも
ひざ下が破れ、
ブーツの金具も取れかかったいた。
皮のライダースーツとブーツでなければ
足に相当なダメージがあっただろう。
骨は折れていないようだが、
青あざくらいは、できているかもしれないと、
玲子は思った。

「ふー-」

玲子は息を吐きだして、スマホを出した。

「もしもし、賢二さん、ちょっとKawasakiを
 運んでほしいんだけど・・・」

賢二は黙って玲子の話を聞いていた。
事のいきさつを聞き終わると

「わかった、1時間でいくから、そこで待ってろ」

そういって電話が切れた。

ジャスト1時間で賢二が運転する
キャリアカーが公園の駐車場に入ってきた。
横にはトクヤマ自動車と書いてあった。
その文字を見て、心から安心感を覚える自分を
玲子は感じていた。

「よう・・やっちまったな
 体は大丈夫か?Kawasakiは
 直そうと思えば何とでもなるが
 体と心はそう簡単にはいかないからな
 あんまり自分を責めるなよ」


そういうと、手慣れた感じで
キャリアカーにKawasakiを載せ
ロープで固定した。

玲子はキャリアカーの助手席で
銅製の天板を握りしめていた。
賢二は余計なおしゃべりはしてこなかった

玲子は賢二の<あまり自分を責めるなよ>
がリピートしていた。
徹の時も、自分を責めて責めて
結局、あの場所に居られず、
父親の実家へ逃げてきた。
母親は何も言わず、
そんな玲子を認めてくれた。
賢二も、
ワイナリーカンパネラのオーナーも、
みんな自分を認めてくれた。
しかし、玲子は自分を認められなかった。
さらに、こんな自分が情けなくも思えた。
自分は何を求めているのか、何をしたいのか?
玲子はなんともいえぬ葛藤の中で
自問自答していた。

進化

玲子は足を引きずりながら
キッチンに立っていた。

「アレクサ、私の勝歌かけて」

アレクサからユーミンの
<ホライズンを追いかけてかけて>
が流れ出した。
玲子が頑張りたいと思うときにかける曲だった。
父親がよく車で聴いていたのを思い出していた。

<レイ・笑いながら泣くって
 どういう時かわかるかい>


そんな父親の言葉を思い出しながら
玲子は全身の力を込めて、パンをこねていた。
それは何かにとりつかれたようでもあり、
どうしようもできない自分自身を
ぶつけているようでもあった。

<L'aventure>とは、
人生という冒険の旅にでかけよう
そしてゴールを一緒に目指そうとういう意味だと
思っていた。
父親もよくそんな事を言っていた事を
思い出していた。

徹とあゆむはずだった道
徹と共有したかったゴールはもうそこには無い。
それでも、笑いながら泣きながら
歯をくいしばって
現実を生きていかなければならない。

玲子も、自分の人生と戦っていた。
<もう一度冒険してもいいのか?>
そう思った時、
浮かんだのは黙って寄添ってくれた、
賢二の横顔だった。


銅製の天板の効果は大いにあった。
12センチほどのフランスパンの生地で作った
パンに、きれいにクープが入った。


銅の熱伝導率で、焼き上げ温度が
業務用のオーブン並みに上がったことが
オーブンに入れた水蒸気をちゃんと発生させ
クープがきれいな盛り上がりに
なったと考えられた。
玲子は、よつ葉とカルピスのバターを
ブロックでパンの上に落として、食べた。

「うまい・・おいしぃ、焼き上がりも上場」

さらにそこへ、あんこを乗せてみた。

「うまい・・おいしぃ、最高じゃん」

さっきまで泣きそうな顔が、
少しだけ明るくなった。

玲子はさらに、
5センチのミニ食パンも作っていた。
中にマシュマロ入れて焼くと、
空洞ができる、そこへ、あんこと
バターを生クリームへ溶かし入れた
あんバタークリームを作って詰めた。

「うまい・・うまい・・こいつはいけるな」

いつのまにか、賢二がつまみ食いをしていた。

「いつのまに入ってきたの?っていうか
 いつから居たの?」


「なんか集中してたから、声をかけずらくてな
 うまい・・おいしいのへんからかな」

「もう、恥ずかしいじゃない」

玲子は少し頬を赤らめていた。
恥じらう玲子をよそに、賢二がミニ食パンを
一つ、また一つを平らげていく。

「これが今度、山田オーナーのワイナリーの
 イベントで出すパンかい」


賢二が玲子に聞いた。

「そうよ、白ワインにも赤ワインにも合うように
 バターの量をブレンドして、
 あんこの甘みを調整したの。
 和洋折衷とまではいけないけどね」


そういって玲子がちょっと口を尖らせた。

「まぁそうツンツンするなよ、
 軽自動車もってきてやったから勘弁しろよ。
 山田オーナーのところまで、
 歩いてはいけないだろ、その代わり
 今日はワインを開けるぞ・・」


まるで少年のように笑う賢二に
玲子がぽかんとしている。

「山田オーナーの新作、竜眼ワイン」

「竜眼(りゅうがん)ワイン」

玲子が聞くと

「竜眼というブドウ品種で作った白ワインらしい
 俺も飲むのははじめてだけど、
 新作のパンに合うか
 ワインで試してみなきゃいけないと思ってな」


「竜眼って、なんか偉そうな感じ」

「まぁ一口どうぞ・・」

そういうと、
賢二がワイングラスに竜眼を注いだ。
玲子はワイングラスを受け取ると一口飲んだ。

「おいしい、
 ワインだけど、ワインじゃないみたい。
 まるで日本酒のような味わいだけど
 ブドウを感じる、こんなワインもあるのね」


そういう玲子をしり目に
ワインがぶがぶ、パンをわしわし食べている
賢二を少しかわいいと思った。

賢二は結局、玲子が作った
ペペロンチーノも平らげ、
タクシーで帰っていった。
酔っぱらって、手を出してくるかと思ったが、
以外に紳士的な賢二に玲子の心は動いていた。


玲子はワイナリーカンパネラに居た。
賢二が貸してくれた軽自動車が大活躍した。
新作パンの材料や、
電気オーブンも運んできたのだった。
KAWASAKIでは、無理だったと思っていた。

カンパネラの厨房は大忙しだった。
各月で開かれる感謝祭でふるまう
料理の仕込みで、スタッフも鈴木シェフも、
てんてこまいだった。
ワイナリーの入口の周りには
5台ほどキッチンカーも来ていた。
ワインやシャルドネ等を出すので、
駅からの送迎もバスをチャーターして
ピストン輸送だった。

あっという間に、100名規模のお客さんたちが、
ワインを飲んだり、食事をしたりしていた。
感謝祭なので、多少のディスカウントはあるが
売れ行きは好調の様子だった。
レストランスペースも
お客さんで埋め尽くされていた。

玲子はレストランで出す
ピノノワールの入ったパン焼いていた。
合間に、
露天で売るアンバターと一口食パンも
電気オーブンで焼いていた。

お客さんたちは、玲子のパンを食べながら
ワインを飲んでは
「おいしい、おいしい」
そう言ってくれた。
このワイナリーに来るお客様たちは、
山田オーナーの人柄か、みな紳士淑女だった。

感謝祭は大成功の内に無事終了した。
ワインはかなりの売り上げになったようだ。
ピノロワールで作ったPan de Campanellaも
竜眼も販売の棚は空だった。

「レイちゃんお疲れ・・」

そこには山田オーナーと鈴木シェフが居た

「さぁ一息ついて、打ち上げだ」

そういうと、レストランスペースに案内された。
すでにパーティーの準備ができていた。

山田オーナーは
竜眼をスタッフみんなのグラスに注いで

「お疲れさまでした」

そういって、グラスを高々と上げた。
みな口々に労をねぎらった。

「レイちゃん、今日の新作パン
 美味しかったよ・・
 試食の時と少しかえたよね」


そう鈴木シェフが言った。
山田オーナーも近づいてきて、うなづいていた。

「勝手に変えてすいません、
 竜眼を飲んで、
 バリエーションがほしいかなと思って。
 12センチのミニフランスは試食の時と同じ
 アンバターにしましたが、
 アンバタークリームの一口食パンは、
 ニンジン、カボチャ、抹茶と
 レタスの粉を入れたもの、そしてプレーンの
 5色セットにしました。
 そのほうがお客さんも
 いろいろ楽しめていいかと思ったので」

「ナイスアイデアだね、私は抹茶を
 オーナーは抹茶と間違えて
 レタスを食べたんだけどね
 竜眼にぴったりだったよ。
 このパンも、
 レストランのメニューに入れてもいいかな」


「山田オーナーと鈴木シェフに
 喜んでいただけるなら、
 そして、このレストラン&ワイナリーに来る
 お客様に喜んでもらえるなら、
 私もうれしいです。ぜひお願いします。」

3人はお互いに握手をした。



「おーいレイいるか」

トクヤマ自動車と入ったキャリアカーで
賢二が駐車場に入ってきて、運転席から叫んだ。
玲子はキッチンから出てきた。

「Kawasaki、修理完了だ、
 ついでに整備もしておいた。
 結構エンジンはスムーズだ、
 あとリアボックスもくたびれてきてたので、
 変えておいた。
 コケタ時に、ちょっとヒビも入ってたしな」

玲子はKawasakiを見て
<おかえり>そう心の中で言った。

賢二は、てきぱきと、
KAWASAKIをキャリアカーから
おろしながら、

「修理代はたんまりもらうからな
 がんばって稼げよ、オートバイのパン屋さん」


そういいうと、
賢二はさっさと仕事へも戻っていった。

玲子は焼きあがったアンバターと一口食パンの
5色セットをKawasakiのリアボックスに詰めた。

今回のパンの功労者は、
銅製の天板だ・・これを作ってくれた、
水辺社長に届けようと思っていた。
しょうがい者の従業員とも話をしたいと
思っていた。

玲子はぼろぼろになったライダースーツを着て
Kawasakiにまたがった。
キーを回す、セルを押し込む
聞きなれた、キュルキュルと言う音
一回でエンジンがかかった。
キーホルダーには徹のゼファーの合鍵も
パンのマスコットも付いていない。

玲子は一度アクセルをふかし、
クラッチを繋いた。
Kawasakiのエキゾーストが玲子の耳に、
別の何かを伝えているかのようだった。

<L'aventure・・さぁ新しい冒険のはじまりだ>
父親の声が聞こえたような気がした。

裏庭ではライラックの花が満開になっていた。

終わり

あとがき

今回もつたない小説を投稿しました。
オートバイのパン屋シリーズ三作目です。
Webで読むには5千字前後が限界かと思い、
なんとか短く短く書きましたが、
あれもこれもと足してしまい、結局7千字に
なってしまいました。
思うように言葉は伝わらないですし、
想いを伝えるのはむずかしいですね。

今回も少しだけ成長した玲子に出会えて、
私自身もうれしく思っていますが、
人の心に根深く刺さったトゲは
なかなか抜けないのかもしれません。

オートバイのパン屋、永遠のテーマ曲も
聴いていただけたら嬉しいです。

本日も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
皆様に感謝いたします。

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鎂灿(meecyan) み~さん
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