変化を起こす:スティグマを減らすために、私たちはどのように協力できるか マイケル・P・ボイル
本記事では、Stammering Pride and Prejudice Difference not Defect(吃音プライドと偏見 欠陥ではなく差異)から第11章 Making change happen: How we can work together to decrease stigma Michael P. Boyle(変化を起こす:スティグマを減らすために、私たちはどのように協力できるか マイケル・P・ボイル)を紹介します。
まず、著者のマイケル・P・ボイルについて紹介します。
ボイルは、モントクレア州立大学の准教授で、専門はコミュニケーション科学と障害です。ボイルの研究は、吃音者(people who stutter=PWS)が経験しているスティグマと、そのスティグマを減らす方法を調査することです。ボイルは、自身にも吃音があり、そして臨床家でもあります。
ボイルによれば、吃音のprofessionals(専門家)と吃音のadvocates(支持者)の間では論争が起こっているが、専門家と支持者の間には共通する基盤もあるとのことです。
本章では、以下のことについて説明されています。
何故専門家と支持者の間で緊張関係が生じるのかを明らかにする。
どのようにして専門家と支持者の興味関心が重複するのかを明らかにする。
吃音の社会スティグマを減少させ、吃音者(PWS)に対する肯定的なイメージを高めるエビデンスに基づく戦略を説明する。
将来的に専門家と支持者が共同して、吃音に対する一般市民のイメージを改善させるアイデアについて説明する。
今回はこの中から(3)についてお話しようと思います。
今回ご紹介するのは、Boyle et al.が2016年に出版した論文「A comparison of three strategies for reducing the public stigma associated with stuttering.(吃音に関連する社会スティグマを軽減するための3つの戦略の比較。)」を簡単にまとめたものになります。
気になる方は以下のURLからどうぞ。
この論文では、まずアメリカ合衆国に住む成人212名に4種類ある動画の内1本の動画を観てもらいました。実験に使用した動画は、吃音についての教育動画、吃音についての抗議動画、吃音当事者についての交流動画と、コントロール群としての吃音とは全く関係ない動画の4種類になります。これらの動画は5分間の動画となっており、吃音に対するアンチ・スティグマ・アプローチに関する動画(コントロール群を除いて)となっています。
実験参加者には、動画を視聴する前、視聴後、そして視聴してから1週間後の計3回、吃音に対するアンケートに回答してもらいました。
実験結果は、動画視聴後コントロール群と比較して、3種類の吃音動画視聴グループ全てにおいて、吃音に対する否定的なステレオイプ、否定的な反応、差別的な意図を有意に減少させました。
動画視聴1週間後、コントロール群と比較して、教育動画、抗議動画視聴グループにおいて、ステレオタイプが有意に減少していました。
一方で、交流動画視聴グループのみが、コントロール群と比較して、吃音者に対する肯定的な態度が有意に増加していることが分かりました。
したがって、3種類の異なるアプローチにはそれぞれのメリットがあることが分かりました。
教育動画と抗議動画は吃音に対する否定的な態度を減少させる上で効果的でありますが、一方で交流動画には吃音に対する肯定的な態度を増加させる上で最も効果的であるといえます。
また、今回の実験参加者は吃音についての動画視聴を楽しんでいたとされています。これは、吃音についての伝え方はどうであれ吃音を知らない人にとって短い動画での吃音についての学びは有意義であったということだと思います。
教育動画と交流動画を視聴したグループは、コントロール群と比較して、動画を視聴したことで吃音について肯定的な態度の変化があったことを報告しています。しかし、抗議動画を視聴したグループは、コントロール群と比較して、あまり吃音についての肯定的な態度の変化は見られなかったそうです。更に、交流動画を視聴した実験参加者は、全員が吃音についての理解が深まったと感じており、動画視聴を楽しめたと報告していますが、これらは教育動画、抗議動画を視聴したグループでは見られなかったそうです。
重要なことは、吃音についての動画を視聴したグループいずれにおいても、実験によって吃音についての肯定的な態度が減少することはなかったということです。
今回の実験から、教育動画、抗議動画、交流動画にはそれぞれ異なった効果があることが分かりましたが、吃音についての理解を深め、肯定的な態度を増加させる上では、吃音当事者との実際の交流の機会を設けることが特に有効なのではないかということが分かりました。
他の研究でも、吃音者に対する肯定的な態度を増加させ、否定的な態度を減少させる上では、吃音についての教育と吃音者との実際の交流が効果的であるとする報告があります。
以上で論文についての紹介は終わりとなりますが、今回ボイルを取り上げたのには理由があります。
それは、先日の水ダウ騒動についてです。
水ダウ騒動では、不適切な形で吃音が広まってしまったと危惧する吃音当事者の声が見受けられました。実際に、Yahooニュースのコメント欄やTwitterには吃音について抗議したことによって煙たがられるようなコメントが見受けられました。
(非吃音者にとって)これくらいのことで過剰な反応をしていると捉えられてしまうこと自体が差別的ではあると思うのですが、今回の論文に基づくと今回の件は吃音に関する抗議動画の視聴グループに近いのではないかと思います。実験結果に従えば、吃音についての肯定的な態度が増加したとは言えないが、少なくとも吃音についての否定的な態度については改善が見られたのではないでしょうか?また、楽観的予想になるかもしれませんが、インたけさんを応援する声が数多く見受けられましたので、これは実験でいえば交流動画の視聴グループに当てはまり、吃音に対する肯定的な態度を増加させた可能性もあるのではないでしょうか?少し楽観的かもしれませんが、今回の論文からは上記のようなことが言えるのではないかと思います。
今回は以上となります。
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