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短編小説『Give me money』

まえがき

この物語は、「お金」という存在を再定義するための短編です。お金がすべてではないけれど、私たちの生活には欠かせないもの。その二面性を探りながら、少し違った視点を提示してみたいと思います。


Give me money

大雨が降りしきる真夜中、亮太は薄暗いアパートの一室で独り膝を抱えていた。冷たい雨音が窓を叩き、空気は湿り気を帯びている。机の上には支払い期限を過ぎた請求書が山積みになり、その存在が彼の胸を圧迫していた。

「なんで俺だけ、こんなに苦しいんだろう…」

声に出した途端、自分の情けなさにさらに落ち込んだ。大学を中退し、夢だったミュージシャンの道も頓挫した。今は派遣の仕事を転々としながら、なんとか生活を繋いでいる。

そんなとき、スマホが光った。画面には、見覚えのない名前が表示されていた。

「Give me money」

何かのいたずらだろうか?亮太は疑いながらも、メッセージを開いた。


送信者: 「お金の精霊」
本文: あなたの欲しい金額を教えてください。その代わり、あなたの「何か」をいただきます。


亮太は一瞬、ふざけていると思った。しかし、あまりの追い詰められた状況に、何かに縋りたかったのも事実だった。試しに返信してみる。

「100万円。これで借金も返せるし、少し楽になれる。」

メッセージを送った瞬間、部屋の空気が一変した。窓の外から突風が吹き込み、雨音が一瞬止む。そして、目の前に黒いスーツ姿の男が現れた。

「100万円、確かにお渡ししましょう。ただし、対価として…『時間』をもらいます。」

「時間?」亮太は眉をひそめた。

「はい。あなたの人生の中から、3年分を頂戴します。それでも構いませんか?」

驚きながらも、亮太は即答してしまった。「構わない。それくらいで済むなら安いもんだ。」

男は薄く微笑み、亮太の手に100万円の束を置いた。その瞬間、男は消え、部屋には再び雨音だけが響いた。


亮太の生活は劇的に変わった。借金を清算し、生活の余裕を取り戻すことで新しい仕事も見つかった。友人関係も改善し、人生は順調に思えた。

しかし、数カ月が経ったころ、亮太は奇妙な異変に気づいた。体力が以前より著しく衰え、記憶が曖昧になることが増えた。そして、医師の診断を受けた結果、彼の身体年齢は実際の年齢よりも10年以上も老化していた。

「これが…『時間』の代償か…」

亮太は呟き、震える手でスマホを握りしめた。そして、再びメッセージを送る。

「もっとお金が欲しい。でも、もう奪われるものなんてないだろう?」

数秒後、画面に短い返信が届いた。


送信者: 「お金の精霊」
本文: あなたの『心』を頂きます。


亮太は少し迷ったが、すでに選択肢はないように思えた。「いいだろう」と返信を打つ。

その瞬間、彼の胸の中にあった何か大切なものが失われていく感覚がした。そして、またしても手元には札束が残った。


その後、亮太は大金を手に入れたものの、笑うことも、泣くことも、誰かを思いやることもできなくなっていた。冷え切った感情の中で、ただお金を数え続ける毎日。人生は豊かになるどころか、虚無へと堕ちていった。

ある日、彼はふとスマホの画面を眺め、最後のメッセージを送った。

「もう要らない。すべて返すから…俺を元に戻してくれ。」

しかし、それに対する返信は二度と来ることはなかった。


あとがき

亮太の選択は、多くの人が無意識に繰り返している「お金のために何かを犠牲にする」という行為を象徴しています。本当に必要なのは、お金そのものではなく、私たちが大切にすべきものを守る力ではないでしょうか。この物語が、あなた自身のお金との向き合い方を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

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