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特別支援学級卒業後の「進路」について

■ 高等特別支援学校

 息子は結局、小学校入学から中学校卒業までの9年間、ずっと特別支援学級(個別級)の在籍ということになりました。

 横浜市内の場合、「知的」または「情緒・自閉」の障害があるとして特別支援学級に在籍している「療育手帳」の交付対象になる生徒の「中学校卒業後の進路」は、概ね次のようになります。

 知的な遅れが小さい生徒の場合には、市立の高等特別支援学校(ほぼ同様の若葉台特別支援学校高等部「B部門」を含む)に進学して「障害者枠」での一般就労(障害者雇用に該当するが仕事的には一般と同様)を目指す、というのを「目標」にすることが多いです。
 そしてこれが「ベスト」コースかのように語られることも多いです。
 実際、これらの高等特別支援学校等は就職率も相当に高く、人気もあるので「受けても全員が入れるわけではない」という学校だったりします。学力検査(どちらかというと「生活に必要な基礎学力」を問う内容)もあるのですが、基準が若干「謎」な部分があり、「学力が高過ぎてもダメ」という「都市伝説」もよく聞きます。しかし、本当のところはよくわかりません。
 あくまでも筆者の「感覚」ですが、この校種は概ね「B2」程度の生徒を対象にしていると思いますし、年度によっては説明資料にそう書いてあることもあります(少なくとも昨年度の選考はそうでした)。

 この校種に該当する学校は、神奈川県立学校にはなく、横浜市立3校と川崎市立の1校だけです。
 川崎市では「川崎市立中央支援学校」の「分教室」という位置付けになっています。
 横浜市ではいずれも横浜市立の「日野中央高等特別支援学校」、「二つ橋高等特別支援学校」と「若葉台特別支援学校高等部・知的障害教育部門(B部門)」がこれに当たります。
 若葉台特別支援学校には、「肢体不自由教育部門(A部門)」の小学部・中学部・高等部」もありますが、「知的障害教育部門」は高等部だけに設置されています。他の2校は「知的」の「高等部」だけなので「高等特別支援学校」と名乗っていますが、若葉台は複数部門かつ高等部以外もあるため「特別支援学校高等部」となります。

 他の都道府県でも同様に、比較的障害が軽度な生徒を対象として、障害者枠での一般就労を目指した訓練を行う「高等部のみの特別支援学校」のことを「高等特別支援学校」と称することが多いようです。

 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)では、

第七十六条 特別支援学校には、小学部及び中学部を置かなければならない。ただし、特別の必要のある場合においては、そのいずれかのみを置くことができる。
② 特別支援学校には、小学部及び中学部のほか、幼稚部又は高等部を置くことができ、また、特別の必要のある場合においては、前項の規定にかかわらず、小学部及び中学部を置かないで幼稚部又は高等部のみを置くことができる。

とされています。

 「高等特別支援学校」は「特別の必要がある場合」にのみ設置できる特殊な存在の学校と言えるのかも知れません。

■ 特別支援学校と「分教室」

 高等特別支援学校等への進学が難しかったり、あるいは「情緒・自閉」でも知的な遅れがやや大きいとか、「知的」に該当する生徒の場合は、「知的障害教育部門」のある県立養護学校(当時・現在は全て「支援学校」に改称)が、県立高等学校の「空き教室」を活用して設置している「分教室」に進む場合が多いです。
 同等の学校として、廃校になった小学校や児童養護施設などを「リノベーション」するなどして開校した「県立○○支援学校」の中に設けられた「知的障害教育部門」がそれに近い位置付けです。
 今では元々「養護学校」という旧称のままだった学校と名前だけでは区別がつきませんが、神奈川県立の場合は「横浜ひなたやま支援学校」、「あおば支援学校」と「えびな支援学校」がこれに当たるようです。
 このカテゴリの学校は、高等特別支援学校等の生徒が目指す「障害者枠」での一般就労だけではなく、いわゆる「特定子会社」などを含めた「障害者向けの職場」への就職などの割合が多くなってきます。
 また、基本的に「自力で通学ができること」が条件になっており(いわゆる「スクールバス」の類がありません)、概ね「B2」から「B1」の生徒向けだと思います。

 そして県立養護学校(当時)の「本校」や市立特別支援学校の「知的障害教育部門」があります。
 こちらは、そもそも募集段階で「A1・A2」を最優先にしています。それで定員に余裕があると、次は「B1」が優先になります。つまり「自閉スペクトラム症」などの「神経発達症」などがどう、ということではなく「中度以上の知的障害」があることを前提にしています。
 この校種もニーズが高くて、全ての希望者を受け入れることができず、自力通学が可能な自立度の高い志願者(主に「B1」相当)をなるべく「分教室」などに誘導せざるを得ない状況のようです。
 卒業後の進路は、いわゆる「福祉的就労」や「福祉サービスの利用」になることが多いと思います。

 もちろん、生徒それぞれの個性がありますので、どれがいいとも限らないのですが、「知的な遅れの程度」に応じて、概ねこんな感じに分かれています。

 息子も、実際にいくつかの「分教室」などを見学に行ったり、説明会に参加したりもしました。
 それについては、別項を立てて書こうと思います。

■ その他の高等学校など

 一方で、知的な遅れがなく「療育手帳(愛の手帳)」の交付対象にならない特別支援学級在籍生徒は、この流れには乗れません。いずれも「療育手帳」があることを前提とした就労が目標だからです。
 また仮に「精神障害者保健福祉手帳」を持っていたとしても、それに対応する特別支援学校等の部門がないのです。

 特別支援学校では、障害種別ごとに「部門」が分けられています。しかし、中学校までの特別支援学級(個別級)に設定されていたような「情緒」に該当する部門がありません。あくまでも「知的」障害教育部門という位置付けのため、ここで言う「手帳」は「療育手帳」なのです。
 もちろん、特別支援学校には「肢体不自由」とか「視覚」「聴覚」といった部門もありますが、当然ながらこちらは「身体障害者手帳」の範疇になります。本稿の趣旨からは外れますので、ここでは割愛させていただきます。

 「療育手帳」がない、となると、どうにかして「普通の高校」を受験するしかなくなります。
 しかし、既に述べたとおり、公立の高校の場合にはいわゆる「内申点」が大きなカギになります。
 そのため、授業の多くを特別支援学級で受けた場合、ほとんどの教科で「内申点」が付きません。
 実際に、療育手帳を持たない特別支援学級に在籍した生徒の多くが、発達障害などに理解のある私立高校などに進学しています。

 私立高校では、この「内申点」についての扱いが、学校によってかなり異なります。
 もちろん「推薦(単願)」や(公立不合格の場合の)「確約」(併願の一種)の場合は、ほぼ「内申点」(英検や漢検などでの加算もあったりはします)が基準になります(このあたりは娘の受験のところでまた登場することになると思います)。
 しかし、中には特別支援学級(個別級)に在籍していたような生徒に対しても門戸を広くしている高校もあり、そのような場合には「内申点」がなくても進学できる可能性はあるでしょう。
 ただし、授業料などの費用は、公立高校に較べると、かなり負担が大きくなります。
 現在では「高校無償化」で、私立高校への進学も多くなっていますが、例えば両親がフルタイムの正規職員とかだと、所得制限で無償化対象にはならないことが少なくないと思います。そのため、それなりの負担は覚悟する必要が出てきます。

 一方で、ちょうど中学校に進んだ頃から、神奈川県が掲げる「共生社会」を目指す一環として、まず県西部を皮切りに始めていた「インクルーシブ教育実践推進校」が、県全域に展開されることになり、横浜市内でも3校(城郷、霧が丘、上矢部の各県立高校)が指定されました。
 特別支援学級の担任も、息子のような生徒には「こういう学校が向いているんじゃないかと思う」と言い、候補に挙がるようになりました。
 これについては、改めて一項目を立て、別稿として書きたいと思います。

 前述のとおり、息子本人は「私立」という選択肢を考えないようにしていたと思います。
 でも特別支援学級の担任は、志望校に「全滅」してしまう可能性を危惧していました。

 「インクルーシブ教育実践推進校」の「特別募集(入試)」は、一般の公立高校と同時に行われます。
 一方で特別支援学校等の募集は、それに先行して実施され、希望の偏りなどがあった場合などは、第一志望が不合格でも(年度によっては第二志望・第三志望が選べる場合もありますし)「後期選抜」や「二次募集」という機会もあります。「高等特別支援学校」等にこだわると「一発勝負」になりそうですが、「分教室」などまで拡げればどこかには入れるだろう、という状況でした。
 そして、特別支援学校等がダメでも「インクルーシブ教育実践推進校」も受けることはできます(それぞれの「二次募集」同士は日程が近接する可能性はあります)。

 就職率では圧倒的に有利になる(その意味では一般の高等学校を凌駕する)と言われる「高等特別支援学校」等はかなり人気が高く、希望者全員が入れるわけではありません。
 これまでも、実際に不合格になり、分教室や私立に進まざるを得なかった卒業生も少なくなかったようです。

 一方で「分教室」などは定員割れする所も少なからずあるようなので、どこかには入れると思います。
 でも、実際に見学などを通して、息子にとっては「分教室」は少し物足りないのではないか、という印象を受けたのも事実です。

 急浮上した「インクルーシブ教育実践推進校」ですが、まだ始まったばかりの制度だということもありますし、要綱上は「軽度の知的障害がある生徒」とはされているものの「手帳」の有無は不問で、中学校長の「推薦」があれば「面接」のみ(内申点も不問)で受けられます。
 特別支援学級の担任によれば、一般学級に在籍している生徒の中にも検討している人が複数いる、という情報もあったらしく、もともと定員(各校21名程度)が多いというわけでもないので、不合格になってしまう可能性が否定できないと言うのです。

 そこで、そうなってしまった場合にどうするか、となります。

 私立の「通信制高校+サポート校」なども検討しておいたほうがいいのではないか、と担任は言うのですが、筆者にはどうにも、それは息子には合わないような気がしていました。

 また、定時制もちょっと違うように感じました。

 そんな時、公立高校の資料を見ているうちに、たいてい毎年「定員割れ」になって「二次募集」をしている高校がいくつかあることに改めて気付きました。
 言い換えれば、一次募集に当たる「共通選抜」なら「内申点」が「ゼロ」でも不合格にはならない、ということです。ちなみに神奈川県内の公立高校では、いわゆる「足切り」はありません。
 そして「インクルーシブ教育実践推進校」とは別に、そもそも「内申点」不問の県立高校もあることに気付きます。

 これについても、後で別稿として書きたいと思います。

■ データで見る中学校卒業後の進路

 少し古いデータですが、当時の資料がありました。
 これは特別支援学級に限らず、中学校全体のものです。

 神奈川県が発表した「公立中学校等卒業者の進路状況調査」の結果によると、令和4年3月(令和3年度・つまり息子たちの学年)に県内の公立中学校(義務教育学校を含む)を卒業した生徒は67,124人で、そのうち高等学校等(ここには特別支援学校高等部も含まれます)に進学した生徒は66,497人でした。

 いわゆる「進学率」は99.1%になります。

 そのうち「全日制進学者」(高等学校(全日制)+高等専門学校)は、60,111人で、卒業生全体に占める割合は89.6%(前年比▲0.7ポイント)となり、平成25年度以来8年ぶりに9割を下回りました。

 一方で「通信制」の高等学校への進学者は4,029人で6.0%(前年比+0.6ポイント)となり、平成27年度以降、一貫して増加傾向にあります。
 通信制高校に対するニーズが上昇しているとともに、従来とは違った通信制高校のスタイルが、徐々に認知され、浸透しているのかも知れません。

 なお、全日制の高等学校についても、公立高校への進学者は漸減傾向にあるのに対して、県内私立高校への進学者は確実に増加していることが読み取れます。いわゆる「高校無償化」の影響が表れているようです。

 ここで「特別支援学級」の卒業生について見てみましょう。

 神奈川県教育委員会(教育局特別支援教育課)がまとめている「神奈川の特別支援教育資料」による「中学校の特別支援学級を令和3年度(令和4年3月)に卒業した生徒の『進路』」を見てみます。

 神奈川県全体では、1,624人の卒業生のうち、957人が特別支援学校高等部の知的障害教育部門に進学しており、58.9%になりますが、横浜市では637人のうち405人ですので、63.6%を占めることになります。
 高等学校(全日制)を見ると、県全体では224人で13.8%になりますが、横浜市は61人ですので9.6%に過ぎません。
 通信制の高等学校は、県が310人で19.1%ですが、横浜市は126人で19.8%と、こちらは県平均よりも多くなっています。

 神奈川県全体に較べると、横浜市の特別支援学級卒業生は、特別支援学校高等部(高等特別支援学校を含む)への進学が多く、全日制の高等学校への進学が少ないことがわかります。これは少し過去に遡って見ても、同様の傾向が見られます。
 この背景には、横浜市内には「高等特別支援学校」等が3校もあることも影響していると思われます。同様の学校は、県内には「川崎市立中央支援学校分教室」しかないことや、市内には県立養護学校(支援学校)の分教室も多くあることなどから、他の市町村と較べると、特別支援学校を選択しやすくなっているのではないか、と考えられます。
 一方で通信制高校への進学割合が高いのは、従来のような通信制高校ではなく、サポート校とも連携した「通学型の通信制高校(言葉としては若干意味不明ですが)」の割合が多くなり、その通学する「校舎・キャンパス」が大都市の駅近くに多いことも影響しているように思います。

 いずれにしても、何となく感じていた「特別支援学級(個別級)から特別支援学校」という「既定路線」の強さは、横浜市内では「数字」としても現れている、と言えそうです。

■ 学びの多様化学校(不登校特例校)

 結果として、わが家では娘も息子も「不登校」になることはないまま、高校3年生になっています。
 しかし、「特別な支援を必要とする子の育児」をしている「当事者」の集まりなどに参加していると、「不登校」に関する質問がとても多くあります。
 育児を進める中で、筆者自身も過去に「(今でいう)不登校」をやらかしており、少し気になっていろいろと調べてみたりもしました。

 前項に続いて、またデータの話をします。

 「神奈川県児童・生徒の問題行動・不登校等調査(公立小中学校版)」によると、令和3年度の横浜市内の「長期欠席者」(年度内の欠席等の日数が30日以上)は、小学校6,536人(前年比2,766人増)、中学校5,370人(同1,305人増)と、急増しているように見えます。
 ですがこれ「新型コロナウイルス感染回避」を理由とした長期欠席の増加が主な要因です(ただし、そこから「不登校」に陥るケースも少なからずあるのでは、と懸念します)。いわゆる「不登校」に限れば、小学校2,635人(同475人増)、中学校3,981人(同454人増)となりますが、それでもかなりの増加傾向にあることがわかります。

 単純計算では、中学生は小学生の半分しかいませんので(実際には中学から「私立」という分が除かれるのでもっと少なくなります)、それを加味すると中学生の「不登校」の割合は小学生の、ざっと3倍以上ということになります。
 それにしても、横浜市内だけで4千人近い中学生が「不登校」になっているという数字は、重く受け止める必要があると感じます。
 同年度の公立中学校の在籍生徒総数は78,002人ですので、割合にすると5.1%という数字が出てきます。20人に一人ですから、クラスに2人以上の割合で「不登校」の生徒がいることになります。
 ちなみに小学校で計算すると(在籍児童総数は177,736人ですので)、1.5%になります。

 また「不登校」と言う話題になると、よく出てくるキーワードとして「不登校特例校」があります。
 ただしこれは、今では「いわゆる」と前置きされることが多くなりました。

 いわゆる「不登校」状態にある児童・生徒の実態に配慮した特別の教育課程が必要と認められる場合において「教育課程の基準によらず、特定の学校で特別な教育課程の編成を行うことができる」という特例を適用された学校のことですが、昨年「学びの多様化学校」という名称とすることが、文部科学省から通知されています。
 そのため後ろに続けて「いわゆる『不登校特例校』」と付記されることが多いです。

 2005年からの指定が始まり、2017年からは、国や自治体による設置が「努力義務」とされるようになりました。
 現在、全国でまだ35校(公立21・私立14)しかありませんが、神奈川県内では公立中1校(大和市)と私立中・高各1校(横浜市)が指定されており、今後も新たに設置・指定を目指す動きも報じられています。

 参考までに「不登校」に関する「キーワード」として、神奈川県私立中学高等学校協会が2020年に開設した「神奈川私学修学支援センター」があります。
 同協会には、県内ほぼ全ての私立中・高が加盟しており、その中で「不登校」になってしまった生徒に対応するために、同センターを設置したとのこと。参考として名称だけですが、紹介しておきたいと思います。

 自らの経験によるものではないことから詳細までは触れられませんが、ちょっと検索すると、いろいろな事例など、興味を惹かれる内容が色々と見付かります。
 いずれ機会があれば、話題として取り上げる時が来るかも知れません。

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