【Essay】答え合わせ
つい先日、選挙に行ってきた。
大学進学と同時に東京に行っていたので
地元で選挙に行くのは初めてだ。
投票所は僕が小学生の頃に通っていた母校だった。
小学校に行くのは約18年ぶりになる。
少し補修されている部分もあったがほとんど何も変わっていなかった。
なんだか懐かしい気分になって、投票を終えてから窓から教室を覗いてみたり校庭の遊具で軽く遊んだりしてみた。
一緒に来ていた妻に「この鉄棒で豚の丸焼きという技をよく披露していたんだ」「この滑り台で頭から滑ったらズボンが引っ掛かってケツ丸出しになったんだ」とアホなエピソードを話した。妻は僕のしょうもない過去の話を聞くのが好きみたいで楽しそうに聞いてくれた。大変ありがたい…
考えてみれば我が子も数年後にはこの学校に通うのか、と不思議な気持ちにもなった。
家に帰り夜に我が子を寝かしつけてから僕も布団に入ると、なぜだか眠れなくなった。母校に行ったのが関係するのか無性に小学校の卒業アルバムを見たくなったのだ。深夜、押し入れを開けてアルバムを探した。夜中にゴソゴソと押し入れを開ける僕を見て妻は「霊にでも取り憑かれたのか」と心配していた。僕は「過去の自分に会いたくなったんだ」とかっこつけて言ったら妻は首を傾げながら寝室に戻って行った。
卒業アルバムには小学生の僕が笑っている写真がたくさんあった。まだ見ぬ無限の未来に期待を膨らませた顔をしていた。あの頃の僕はそういえばどんな大人になると思っていたのだろう?
そんなことを考えていると、卒業アルバムに映る小学生の僕が、大人の僕に向かって「かっこいい大人になれた?」と言っているような気がしてきた。
まだまだ眠れなさそうだしせっかくの機会なので、その問いに答えてあげることにしよう。
『あの頃の僕よ。30才になったらもう立派なオジサンになっていると思っていたな。立派なオジサンになれば世の中のこと全てがわかって大嫌いな勉強はもうしなくても良いと思っていたな。
でも、いざ30才になってみればまだまだわからないことばかりだ。この前、漢字の右と左の書き順を知って驚いたぞ。今も大嫌いな勉強の連続で年末調整という宿題に頭を抱えることになるぞ。
そして、卒業アルバムの後半のページに「将来お金持ちになりそうな人」で2位にランクインしていたな。
あの頃の君は大人になれば好きなだけお金を使えると思っていたよな。最強のお札1万円札を使い放題だと思っていたな。
でも未だにハーゲンダッツを買う時は全財産を使うぐらいの覚悟が必要だ。もうしばらくハーゲンダッツを食べていない。情けないよなぁ…クラスのみんな見る目ないよなぁ。
卒業アルバムの君は友達と楽しそうに遊んでいるな。あの頃は友達と一緒に秘密基地を作って、くだらない話をたくさんして笑ってばかりいたよな。みんなが大人になるのはずっとずっと先のことだと思っていたんだよな。
でも、小学校卒業したらあっという間にみんな大人になってしまうぞ。いつの間にかみんな背が高くなって、声が低くなって、車を運転して、お酒が飲めるようになって、働いて、敬語が上手くなって、結婚していて、気づいたら一生懸命作った君達の秘密基地は跡形も無くなってソーラーパネルとやらが置かれるようになっちまうんだ。
それに、君は卒業文集に恥ずかしげもなくプロ野球選手と書いているな。しかも、最後のページの寄せ書きには友人達から「野球選手になれよ!」と期待されてるようだな。
でもね、残念ながらプロ野球選手になることはできないよ。こんな未来聞きたくないかも知れないけど、プロ野球選手になれなかったどころか高校生の頃に肩を壊して、もう大好きな野球を楽しくできなくなるんだ。今、速い球を投げれるように必死に壁当てをしているけど全部無駄に終わってしまうんだ。悔しくて悔しくて、あんなに大切にしていたグローブを捨ててしまった…
それに、大人は絶対に泣かないと思っていたよな。そんなことなくてさ。大人になっても一目を憚らず子供みたいに大泣きしたくなるような日があるんだ。まだ意味がわからないかもしれないけど、大人って君が思ってるより強くないんだぜ。
その意味がわかるのは、これから君にとって大切な人と永遠の別れが訪れた時だ』
あの頃の夢見た未来と現在で答え合わせをしてみたら不正解だらけで間違いだらけだ。なんだか、自分に対して申し訳なくなる…
それでも、あの頃の僕が思っていたような未来じゃなかったとしても、不正解だらけの今だとしても、決して悪いことばかりではない。
『今も勉強は嫌いなままだけど、あの頃と変わらず頑張った分褒めてくれる人や喜んでくれる人が大人になっても必ずいる。この前、健康診断で肝臓の数値が引っ掛かった部長に「枝豆が良いみたいですよ」と伝えたらすごく喜んでくれたんだ。じぃじに教えられたことを覚えていたおかげだ。
お金が無くて相変わらず好きなものを買えないままだけど、お金持ちがたくさんいる東京で貧乏な僕を好きになって結婚してくれる人がいる。その人は、誕生日は高級なプレゼントよりも手紙を書いてあげると一番喜んでくれるんだ。誕生日プレゼントはゲーム機やオモチャじゃないと嫌だった君にとっては不思議で仕方ないよな。
それに、みんなで作った秘密基地は無くなってしまうけど、お盆や年末にあの頃と変わらないメンバーで集まって変わらずバカ話をしているよ。アッチャンが秘密基地作っている最中に突然いなくなって警察に電話しようとしたら、実はトイレに行ってるだけだった話は今も定番でみんなで笑ってる。あの頃みんなで意味もなく走り続けた日々は、きっと死ぬまで忘れないんだろうな。
そして、野球ができなくなっても野球に代わる生きがいがたくさんできる。プロ野球選手みたいに輝かしい毎日を送っていないし夢は夢のままで終わってしまったけど、今も変わらず無我夢中で毎日を楽しめてる。この前、子供が無事産まれてくれた時は逆転サヨナラヒットを打った時の何十倍何百倍何千倍も嬉しかったよ。
もし君から未来への答案用紙を貰って答え合わせをするならば、不正解だらけでバツばっかりになってしまうけど点数を書く欄は100点満点をつけたい。
いや、それはさすがにかっこつけ過ぎかもしれないな…
それでもたくさんの人達の支えの中で、今も卒業アルバムに写る君と変わらない笑顔ができているのだから100点はくれなくても合格点をくれてもいいんじゃないか?
あの頃の僕よ』
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