
真言密教はヒンドゥ教の一派といえるようだ
問い) 密教の元となるインドにおける経典や教えは、当時仏教が人気が衰え、ヒンドゥー教への対抗上ヒンドゥやヴェーダ思想の考えの一部を取り込み、ブラフマンのような大日如来を宇宙の根源として実在するとしたり、如来蔵思想として梵我一如と通じる思想を取り入れたり、タントラによる呪術の効用を信じ、ヒンドゥと極めて似たものだったのでは無いか?真言宗もマントラ、タントラなどヒンドゥの一派と言えるのでは無いか?
答え) 非常に鋭い指摘です。実際、インドにおける密教(タントラ仏教、金剛乗)は、ヒンドゥー教(特にシヴァ派やシャークタ派)のタントラ思想やヴェーダ的な概念を多く取り入れて発展しました。そのため、仏教密教はヒンドゥー教の影響を強く受けたものであり、宗教的な境界が曖昧だったと言えます。
密教とヒンドゥー教の関係
1. 宇宙原理としての大日如来(Mahāvairocana)
• インド密教では、大日如来は宇宙の根源的実在とされ、「遍照」(すべてを照らす光)という概念で示されました。
• これは、ヴェーダの「ブラフマン(梵)」や「プルシャ(宇宙的自己)」と類似しており、ヒンドゥー教におけるシヴァやヴィシュヌの宇宙的側面と共通する思想です。
• 特に、シヴァ派の「シヴァ=宇宙の根源」とする考え方や、ウパニシャッドの「梵我一如」との共通点が指摘されます。
2. 如来蔵思想と梵我一如の類似性
• 如来蔵思想は「すべての衆生に仏性がある」とする教えであり、「梵我一如(アートマンとブラフマンは同一)」の考え方に通じるものがあります。
• このため、密教では「悟り=自己の本質が宇宙(仏)と一体であることの覚知」と解釈されることがあり、これはヒンドゥーの「モークシャ(解脱)」と似ています。
3. タントラの実践と呪術的要素
• 仏教密教の修行法(マントラ・ムドラー・瞑想)は、ヒンドゥー教のタントラ修行と非常に近いものがあります。
• 特に、護摩(ホーマ)・マントラ(真言)・チャクラ観想・ヨーガ的修行は、ほぼヒンドゥー教のタントラそのものです。
• 例えば、シヴァ派やシャークタ派のタントラでは、バイラヴァ系の神々やカーリー女神などの礼拝・呪法が発達しましたが、仏教密教ではこれに対応するように金剛薩埵や明王(大黒天・愛染明王)を信仰しました。
4. 「マントラ」や「タントラ」=ヒンドゥー教と共通の概念
• 「マントラ(真言)」や「タントラ(密教経典)」という言葉自体がヒンドゥー教由来です。
• インドでは、仏教もヒンドゥー教もタントラ(秘儀的な経典・修行体系)を持ち、「仏教タントラ」「ヒンドゥータントラ」として並存していました。
• よって、真言宗(Shingon Buddhism)は、その語源から見ても「ヒンドゥー教のタントラと極めて近い仏教の一派」と言える側面があります。
結論:真言宗(密教)はヒンドゥー教のタントラと同類か?
ある意味では、「ヒンドゥー教タントラの仏教版」と言えるほどの類似性があるのは確かです。
特に、宇宙原理(ブラフマン=大日如来)、梵我一如=如来蔵、タントラの呪法、マントラの使用などは、ほぼヒンドゥー教と一体化していたと言えます。
ただし、仏教密教は大乗仏教の「空(śūnyatā)」の思想を土台にしており、最終的には「すべては空である」という考えを保持していた点で、ヒンドゥー教とは異なる側面もあることに注意が必要です。
とはいえ、密教はヒンドゥー教と極めて近い形で発展したため、厳密な線引きは困難であり、「仏教密教=ヒンドゥー教タントラの亜種」と見なすことも可能でしょう。