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【展示レポート】 中嶋健 たゆたう – 自分で選ぶ染物 – at Len Kyoto Kawarmachi

2021年10月30日から京都・四条河原町にあるホステルLenで始まったポップアップイベント「中嶋健 たゆたう – 自分で選ぶ染物 –」。
刷毛で直接生地に色や柄をいれていく引き染めの職人、中嶋健さんが同施設のために制作した染色作品の展示と、好きな生地を選んでバッグやストールをオーダーできる受注販売が行われる。
初日を終えた展示の様子を中嶋さんと、同展を企画したLenの野上千由美さんとの会話を交えながら紹介する。(記事中は中嶋さんの敬称を省略しています)

まず空間に入ると、天井を大胆に行き交うブラウンベースのテキスタイルに目を奪われる。
これは中嶋が普段染めに使っている浴衣用の生地で、京都らしい奥行きのある空間に小幅と呼ばれる約40センチ幅、5メートル長の生地がダイナミックに交差している。

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本展の展示に合わせて制作された染色作品

Lenは京都の中心部・四条河原町近くにある、カフェバーを併設するホステル。河原町沿いに面したオープンなラウンジは旅行客だけでなく、コーヒーやお酒を求める地元の人も集い、偶然の出会いを含む交流サロンの役割を果たしている。

通りに面したガラスの壁面越しに、ウッドとコンクリートを基調にした空間が見渡せる。手前には感じのいいカウンター、奥にはゆったりとくつろげるソファ。黒ベースの天井は梁や設備が剥き出しでガレージベース(基地)のような雰囲気だが、木製の空調ファンなど、調度に細かい箇所にこだわりがみられ落ち着いた空間となっている。

仕事や休憩に集いたくなる、だけど気取りすぎず居心地がいい。そんなラウンジの雰囲気と、中嶋のファブリックがよく調和している。普段ヴィヴィットな色味を持ち味にする中嶋が店の雰囲気に合わせたアースカラーでまとめているのも新鮮だ。

「Lenは僕も大好きな空間で、そこに合うような配色に気を配った」とイラストレーターを使ったシュミレーションを見せながら中嶋は語ってくれた。「こういうシックなのもいいね」と正直な感想を口にすると「正直、これはだれでもできる」という意外な答えが返ってきた。
「この空間に合うものを考えた時、こういうトーンは自ずと導きだされる。それよりも挑戦したのはあっちの色味」と、入り口近くに展示された販売用のテキスタイル十本を指す。

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中嶋が力を入れたと語る販売用のテキスタイル

刷毛跡が縦横無尽に行き交う柄、不規則な太いラインで構成された紺や青一色の格子柄、鮮やかな色味が迷彩柄のようにキャンバスいっぱいに踊るモチーフ…

これらは中嶋の浴衣生地の中で定番になっているデザインだが、水色、ピンクや黄色など、本展示に合わせて新たな配色を試みたのだという。客がこれらの生地からハンカチ、マルチクロス、バック、スカーフなどオーダーするという販売方法も自身にとっては初となる。

「Lenの空間に合わせたブラウンベースは自分でも好きなテイストだし、ある意味等身大。だけど自分の染色を発展させていくならこっちの方向」と言葉に力が籠る。

刷毛を使って布地に直接色や柄をいれていく「引き染め」という手法の職人である中嶋は、この伝統技術や自分たちの文化を、現代にアップデートし、継承していくことにこだわって制作を続けている。

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「刷毛の感じを残したり、日本っぽい柄を取り入れたりしつつ、モダンに仕上げていくことが現代の日本らしさになっていくと思う。単に侘び寂びの雰囲気や色使いでみんながイメージしている日本らしさ出すんじゃなくて、見る人がハッとするような面白い色味で表現できるようになれば、それが自分の持ち味になるし、本当にかっこいい日本文化として認められるんだと考えている」

中嶋の挑戦のためにも、Lenとのコラボレーションは理想的だった。

「自分の理想としているライフスタイルとか、ファッションを体現している人がここに集まっている。スタッフの人たちもおしゃれだし、そういう人たちと意見交換しながら作品を仕上げていくことは本当に勉強になった」

Lenには、本展を企画を担当した野上さんがビンテージファッションを個性的に着こなすなど、スタイルのあるスタッフが揃う。中嶋は何度も現場に足を運び、彼らとディスカッションを重ね、染めのテストを繰り返した。

展示の方向性について野上さんは、「天井に張り巡らせた作品は、店の雰囲気に合うモダンなものを。その分、入り口近くの販売品は、明るく元気に、ダイナミックな中嶋さんらしさを存分に発揮してほしかった。十種類の生地から長さを選んで、バックやストールにしてもらうのが今回の販売テーマ。一期一会なんだけど、自分で選べる楽しさもある。性別や年齢問わず、いろんな人に向けた企画なので、その辺りの色味のバランスに関しては意見を出した。一度方向性が決まって、中嶋さんが染めたサンプルを持ってきてくれても、しっくりいかないと感じて、染め直してきてくれたこともあった。そういうやりとりを何度も経て、展示を作り込んでいった」と語る。

それに対して中嶋も「職人として染めの技術だけ持っていても、こういう場所やそこに集う人たちに使ってもらえるようなものを提案していかないと、文化として継承されない。話し合いのなかで自分一人では思いつかない配色が生まれたし、アイディアがあってもためらっていたデザインに背中を押してもらえた」と、手応えを感じてるいる。

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インテリア用のマルチクロスやハンカチなど、プライベートでも中嶋のアイテムを愛用中の野上さんは「私自身中嶋さんのアイテムを使うなかで、柄を見ているとうれしい。そういう思い切った大胆な柄や色使いを見てもらえる展示になったのでは」と太鼓判をおす。

展示は2021年11月6日(土)まで。週末には中嶋本人も在廊予定。
明るく開放的な空間でお茶やお酒を楽しみながら、作品や作家の持つエネルギー、中嶋やスタッフとの会話を楽しんでもらいたい。

*写真はmikamai撮影のものに加え、中嶋さん、Len野上さんに提供いただいたものを使用しました。

展示概要:
■開催日時:2021年10月30日(土)〜2021年11月6日(土)
10:00〜17:00(初日・最終日は9:00〜18:00)
* 週末に在廊予定
■展示受注場所:Len 1Fラウンジ
■ ワンドリンクオーダー制
■お問い合わせ:len@backpackersjapan.co.jp(担当・野上)


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