【インタビュー】アーティスト・栗原亜也子：私はここにいる_1

京都市上京区にある現代アートギャラリー HRD Fine Artでは、2020年10月10日（土）より、栗原亜也子個展 <I Am Here, There and Everywhere: Mind Games 2020>が開催される。　横浜を拠点に活動する栗原氏は国内外でオセロを用いた作品群を制作・発表してきた。ゲームの性格上、他者の存在を必要とする本シリーズは、一対一でのゲームの他、不特定多数の大規模参戦、遠隔対戦等、様々なコミュニケーションの試みが行われきた。時代が大きなうねりを見せ始めた最中での展示を控え、氏に作品への思いやコミュニケーションについて話をうかがった。

今回の展示は、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により2月から展覧会開催を休止してきたHRD Fine Artの再開第一弾の展示となります。人との触れ合いやコミュニケーションのあり方を社会全体が模索している、そんな時期での開催です。春以降、各種イベントや会議、講義といった様々な分野のオンライン発信が急速に広まりました。それでも、横浜にあるアトリエからのオンライン展示ではなく、京都の地で現物の展示を行うことを決断されました。

栗原「今回はギャラリーの来場者と、敢えて会わない。気配はあるけれど、フィルターを一枚挟んでいる、そんなイメージの展示になります。
京都での展示は、大きなペインティングのフィジカルな部分、物質としての絵画や手触り、存在感を感じて欲しいというのがある。そこはやはり、リモートやオンラインでは無理。そんな人間としての限界やせめぎ合いを、アーティスト、ギャラリスト、鑑賞者が模索していく…そういった展示になっていくと思います」

個展のタイトル〈I am Here ,There and Everywhere〉にはどんな思いが込められていますか？

栗原「これは、私の出品作のうちの一つのタイトル〈Mind Games ‘I am Here’〉と、ビートルズの名曲〈Here, There and Everywhere〉を組み合わせて作った展覧会タイトルです。ステイホーム中の『私はここにいます』というメッセージ、でもリモート対戦を行うことで『どこででも、私たちはふれあえる』という希望的可能性、そして実際にふれあえない距離へのもどかしさを込めています。　　
ちなみにビートルズのこの曲は甘いラブソングです。作品自体は抽象絵画でエモーショナルな要素を見つけづらいからこそ、感情の入り込む隙間をこのタイトルに込めたかったのです」

栗原さんの代表作、オセロをモチーフにした〈Mind Games〉シリーズでは、一人で作品を完成させるシリーズの他にも、他者との対戦を通じ画面を埋めていく作品群があります。これまでも対面式の対戦のほか、SNSやストリーミングを利用して国内外の相手と遠隔対戦してきました。『リモート』『ソーシャルディスタンス』等、今まさにこの時代を表すキーワードと栗原さんの作風とを、いち早くリンクさせたのがHRD Fine Artの原田氏でした。2015年以降、同ギャラリーでの個展や合同展で、〈Mind Games〉シリーズを発表しています。

栗原「それ以前にも原田さんとは2011年に〈インタラクティブ・ドローイング・プロジェクト‘H氏との対話 / Conversation with Mr. H’〉で遠隔対戦し、ゲーム後の完成品をギャラリーに飾っています。そんな経緯を含め、今年の春に入ってから『今こそこれでしょ』と、SNSのライブ配信を用いた不特定多数との対戦を提案されました。面白そうだとは思いましたが、その時点では重い腰がなかなか上がりませんでした。その後、個展のお誘いがあり、そこから時代に合った見せ方や、遠隔でのオセロの方法を具体的に考え始めました」

今回のZoomを用いたインタビューも「遠隔オセロをプレイしながら」と栗原さんから提案がありました。60センチ四方の透明アクリル板に、ターコイズとサーモンピンクの絵の具をのせながらゲームを進めています。

栗原「実はこれ、ネットで購入した飛沫感染防止用パーティションなんです。アクリル板を用いたオセロ作品はこれまでも制作してきましたが、こちらは展示会場でパーティションとして使用できます。会期中は、このように遠隔プレイで作成したアクリル板へのペインティングを会場に送り込んでいく予定です」

上記、栗原氏のアトリエと繋いで行われたインタビュー中に、並行して対戦されたオセロゲーム。対戦者はコマを置きたい場所を口頭で伝え、栗原氏が二色の絵具を用いて画面を塗り替えていく。（写真はアーティスト本人よりご提供いただきました）

Part2では、ステイホーム中の製作や思いについてくわしく語っていただきました。続きはこちらから

展示詳細：HRD Fine ART ホームページ

栗原亜也子インスタグラム：　https://www.instagram.com/ayakokurihara/?hl=ja