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図書館のシチリア紳士

図書館で雑誌を読んでいると、聞き覚えのある声が、入り口のカウンターの司書のマダレーナに「ブォンジョルノ」と挨拶するのが耳に入る。

あ!

今日は、意表をついて先に、もしくは、ほぼ同時に挨拶しようと、その声の持ち主がゆっくりこちらに歩いてくるのを、息を潜めて、今か今かと待つ。

「ブォンジョルノ!」

懐かしい人に会ったような、嬉しそうな表情で挨拶を交わす。
水色のポロシャツ(トミーヒルフィガーかな)にベージュのチノパン。

彼は、図書館で顔を合わせる人のひとりで、かれこれコロナ以前からの顔見知りだろうか。

1937年生まれの87歳のシチリア紳士。
名前は、いまだに知らない。

しばらくご無沙汰していたが、お子さんのご家族がトリノにいて、そちらの病院にいらしたとのこと。
心臓のペースメーカーの10年毎の交換と目の手術。
目の問題については、うっかり忘れかけていた運転免許更新のために眼科検診を受けた際に見つかったそうだ。(ご年配の方でも運転されている方はけっこういる)
手術というよりも、硬い台の上に仰向けになっていなければならなかったのがとても大変だったとのこと。

彼はスポーツ新聞をいつも読みに来ているそうだが、イタリアの配達制度がテキトーだからか、その日は所望のスポーツ新聞は届いていなかった。
しかたなく、一般紙のスポーツ欄を読まれる。

「ああ、今夜のサッカーの試合は21時からだと思っていたけれど、18時からなんだね!これを見なかったら、試合中継を見逃すところだったよ。スポーツは夢中なもののひとつだからね。若い時からそうだった。好きなものはふたつ。スポーツと……ダンス。そう、ダンス」

帰り際に、握手で挨拶を交わし、その背中を見送った。

また今度。


窓の外のバールから流れてくるボサノヴァが、ゆるりとした夏の空気感に合う週末。


ちなみに、彼が楽しみにしていたチャンピオンズ・リーグ、イタリアはスイスに敗退……

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Jacqueline
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