映画: #1 | 西部戦線異状なし -- Im Westen nichts Neues.
数日前放送のBBC News/Impact に 今年(2023年)の英国アカデミー賞(BAFTA)受賞作の紹介があり ちょっと興味深かったので書き置くことにします。
番組MCのYalida Hakim氏にインタビューされていたのは脚本家 Lesley Paterson氏。
Scotland出身の彼女は著名なトライアスロン選手/コーチで 映画脚本には --学生時代に専攻したものの -- いわば副業的に関わってきたようです。
共同脚本家の旦那さん Ian Stokell氏と一緒にスポンサー探しに16年もの歳月を費やしたが 今回 BAFTAを受賞できたのは 彼女がトライアスロン競技で培ったもの(精神力)、スコットランドの負け犬精神("scottish underdog mentality")とそのスローガン "Just keep trying"、そしてタイミングのお陰だ と 特有の訛で淡々と語っていました。
合計14部門にノミネートされ 最優秀作品賞を含むBAFTA史上過去最多7部門を受賞した、彼女と夫で脚本を手掛けたその作品は
古典的戦争文学の 『西部戦線異状なし』。
出資者はNetflixで 昨秋まずトロントの国際映画祭で上映されたあとネットメディアで上演され 好評を博したそうです。
資金を得られた要因について彼女は 個人的な努力以外にタイミングも大きいと認識しており
例えば16年前はドイツ題材の映画が資金を得るのは考えられなかったが この数年 外国語映画(韓国映画のパラサイト等)の評価が高いことも幸いしたとのこと。
そして
我々の多くが 日々の報道を通じて暗澹とし
遠い場所で起きている悲劇に気を揉んでいるにも拘わらず
飽きもせず継続中の「例の戦争」が関係しているのは言わずもがな なのでしょう。
インタビューの中で彼女は
第一次大戦やその他の戦争を経てもなお眼前で繰り返す人間の歴史は 昔から大きくは変わっておらず ”incredibly disappointing” と 短く吐き捨てます。
戦場内兵士の視点に基づく戦争行為の破壊的残虐性と悲劇性は 例えば 第二次大戦が舞台の『プライベート・ライアン』で 「もう止めて」 と目を瞑りたくなるほどのリアリティで表現されている、 でしょう。
自分はかつて 深夜にたまたま放送されていたこの作品の 白兵同士による一対一戦闘シーンという 露悪の極みのように凄まじい描写を チャンネル切り替え中にアクシデントで観てしまって、トラウマになり
以後 この映画には一切近づかないようにしており 通しで観ておらず
論評しようがない状態です。。。
* 戦場ものではありませんが 日本の 『火垂るの墓』は 開始30分弱で
退散。 以後 トラウマに。。。
PVを観る限り 『西部戦線異状なし』 にも同じ匂いがします。
つまり
自分のような観客の立場では 眼前で日常化している戦争を わざわざ観に行きたいかと言うと。。。。
批評家の評価とは別に 娯楽映画が一般的な当今、興業収入の方はどうなるのか気になります。
先述の Lesley Paterson氏はインタビューの中で
本作ではイギリス人に敵対する側だったドイツ人の視点から彼らの人間性を描いてみたかった と述べており Wikipediaにも 彼女が長い間ドイツ人による原作 (Erich Maria Remarque著) への思い入れがあったことが記されています。
欧州内では 夫々の国民に 未だ第二次大戦でのナチス・ドイツへのネガティブな感情が残っていることを 自分の乏しい経験からも感じますが
そんな敵味方の緊張を嫌でも感じざるを得ない UKとドイツの特別な両国間にあっても 彼女のように逆側の視点が受け入れられるケースがあるのもまた現代であり、
人間という罪深い生物種の歴史の針は悪くない方向へも緩やかに向かう という証拠にもなります。
それは日常的にネガティブな情報が氾濫するメディアを視聴し なにかと悲観的にならざるを得ない気持ちを少し落ち着かせてくれます。
この拙い記事のモチーフもそこから生じています。
本作は今年の米国アカデミー賞にもノミネートされている手前 日本のメディアへの露出などで情報量は今後増えていくと想像します。
直木賞や芥川賞の例を引くまでもなく 作品の評価はあくまで選考者の多数決による決定に過ぎず 作品そのものの価値は読み手に依存し 受賞の有無で右往左往すべきものではない、と思っています。
それでも
国家に招集され戦地の最前線で追い詰められたドイツ兵の心情という一般受けしづらそうな題材が 批評家達ににどう評価され
日々の報道を通じて既に多くのリアリティに晒されてしまっている多くの人達にどこまで響くのか 気になる作品です。
上映手段が映画館なのか、モニター/ネット越しなのかは問わず
トラウマを抱えた自分がこれを観るのは困難だろうなぁ と思いつつ。。。。
[おまけ 1]
この数年ドイツ語を教わっている先生が 毎回 授業の最後15分位に 彼の趣味を反映した 比較的最近製作されたドイツ映画のDVDを上映します
(=耳の訓練?にしては難しすぎて 字幕があってもついていけないので
教育的効果が見込めるのかどうか。。。。)
その殆どの作品に 先生のご贔屓俳優 Albrecht Schuch 氏が出演します。
彼は当世のドイツ映画界で非常に高評価 且つ 売れっ子の俳優なんだそうで 本作にも準主役的に配役されているのを知り 驚き。
[おまけ 2]
撮影現場の様子やこぼれ話はこのリンク先に詳しいです:
追補 230314
米国アカデミー賞では四部門を受賞したようですね: