隠家 #毎週ショートショートnote
会社の奴らだけじゃない。家族にだって知られていない、別の顔の俺がいる。仕事帰りに、人気の少ない駅で降りて、さびれた商店街を歩く。
蔦が壁を埋め尽くした建物がひっそりと建っている。顔認証によってガチャリと錠が外れる。無機質なドアを引くと、ふわりと冷たい空気が流れ出た。
俺はいつもの席につく。すでに食器が並べられていた。
給仕は、踵を返して奥に入ると、ややあって、真っ白な球体のようなものを載せたトレイを恭しく掲げて戻ってきた。
ググッ・・無自覚に俺の喉が鳴った。この店を見つけて以来、誰にも知られないように隠してきた、至福の時間が始まる。
パン!
小気味よい破裂音のあと、目の前に”粉雪”が置かれた。
(450文字)
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