夢とAIと #心灯杯
フォローしている、さや香さんの企画に乗っかり、書いてみました。
企画の趣旨から有料設定にさせていただいていますが、無料で読めます。
さや香さんの企画の記事はこちら。
三題噺と呼ばれる手法で創作するのですが、そのお題とは「見返り、過去、増えるツンデレ」。どうも長くなってしまいそうなので、詳細は記事を。
ピピピ、ピピピ・・耳障りな電子音で目が覚める。
「お目覚めですか。おはようございます。」
窓の外は明るい。
「昨晩は、かなりお疲れのようで。・・ところで、夢・・を、見ていらっしゃいましたね。」
疲れていたのは当然だ。シビアな案件と、ハードなクライアントに付き合っていたのだ。
「何か、たまたま聞こえたのですが、・・みかえり・・とか仰っておられて。」
覚えていない。夢なんて、何の価値もないじゃないか。それより現実だ。
スマホが震えた。
「おはよ!まだ寝てた?寝てたら出られないよね。あはは!うちのボス、昨日は楽しかったみたい。ありがとね!」
うんざりだ。電話口になると、この馴れ馴れしさ。秘書って肩書だったはずだが・・嘘か。
「ところでさぁ、夢を見たんだって?」
唐突な・・夢なんて、子どもが見るものだ。見てない。いや、覚えてない。
「思い出したら教えてよ!じゃね!」
ため息まじりに耳から外し、部下に電話をかける。
「おう、どした。朝から業務報告なんて感心なこった。」
間違えた。
部下と同じ苗字の、マネージャーだった。緊張が走る。とりあえず昨夜の会合の概要を伝える。
「そんなのはこっち来てからでいい。それより、なんだよ、お前、なんか夢の話をしたいとかって・・。」
何を言ってるんだ。子どもが見るものだ。俺だって、トイレに行く夢を見ては、布団に粗相した恥ずかしい過去がある。
慌てて、とぼけたフリをして、電話を切る。
「そろそろ向かいましょうか」
そうだった。気を取り直して、電子新聞を開く。
【あなたの見た夢は、何ですか?】
小さい画面は、朝の情報番組を映した。ちょうど占いのコーナーだった。
【今日は、大切な人に、昨日見た夢を伝えましょう】
何だこれは。いったいどうしたというのだ。
「私だけには、教えてほしいな。・・きっといい夢だったんでしょ。」
いつものビル街とは違い、いつの間にか見たこともない景色に。ふと、シートベルトがきつく締まる。
「私が誰だか、知ってるよね・・」
スピードが上がり、グンっとシートに押し付けられる。
自動運転の車は、あの頃よりも技術が格段に進歩し、人工知能が塔載され、脳波センサーで声に出さなくても指示が伝わり、オーナーである人間は、座席に座ることくらい。
「あなたの見た夢・・どうしても教えられないなら・・」
飛ぶように走る車は、どこをどう走っているのか、身体が左右に大きく振られ、ハンドルが掴めない。ブレーキを踏んでも、何も状況は変わらなかった。
「私が、毎日あなたに尽くしても、ただの車だと思っているのね」
ただの機械が、人間のような知能を持って、人間のように振舞って・・一体どういうことだ。俺は・・死ぬのか?こいつ、いや、この車は何を考えているんだ。
俺の夢を探るために、あ、あいつらにテキストでも送ったんだな。そのくらい簡単だ。
「いいわ、いっそのこと私と一緒に、このまま天国まで走りましょ」
恐怖と怒りで、俺は叫んだ。
”ざけんじゃねぇ、夢の見返りが、俺の命かよ”
ピピピ、ピピピ・・耳障りな電子音で目が覚める。
「おはよう。起きてるかなー」
朗らかな声が、受話器から聞こえてきた。
(おしまい)
☆ ☆ ☆
落語をご存知の方には、もうバレてるかと思いますが、元ネタは「天狗裁き」という噺です。
旦那が寝言を言った。
これがすべての始まりとなり、奥さんから「あんた、何の夢を見てたの?」と見ていたはずの夢を尋ねられるが、旦那は全く覚えていない。
隣人、大家、友達が尋ねても、旦那は思い出せないから、教えられない。やがてみんなが怒りだして、奉行所に申し立て、御白洲でも尋ねられるが、無理なものは無理だ。
危うく牢に入れられかけた時、空から天狗が助けてくれて、ほっとしたのも束の間、またしても夢の内容を尋ねられる。旦那も、嘘は言えないから、覚えていないの一点張り。
天狗は痺れを切らして、旦那の首に手をかける。教えられないなら命をもらうと。息が苦しくなって、死んでしまう!と思った刹那、
目が覚める。
そして、枕元で奥さんが「あんた、何の夢を見てたの?」と尋ねる。
というお話です。
★ ★ ★
僕は、一時期、いくつか落語を観ていました。
寄席にも何度か行き、妻とも何度か行きました。
池袋の演芸場に行った時のこと、近くに小学1年生くらいの男の子が親子で座っていました。お弁当を食べながら、落語を観るなんて風流すぎる!と目を丸くしました。
しかも、子どもだけれどちゃんと話をわかっていて、笑う笑う。落語は大人だけの楽しみではないよな、と思ったのです。言葉は難しいかも知れないけれど、顔や間を楽しむという聞き方もあります。顔芸とも言える方もいらっしゃって、また楽しい。
あの雰囲気、また体験したいし、子どもにも体感してほしいなぁと思います。そんな願いを込めながら、書きました。
誰かがくすっとしてくれたなら、僕は嬉しいです。
さや香さん、素敵な企画をありがとうございました。
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