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ドラえもんは、夢を叶えてくれない

いろいろな世界で活躍する”おとな”が、ドラえもんのマンガから好きな1話選んで、いまの職業との関わりや、自身の経験を紹介する作品を読みました。

おそらく中高生向けに書かれている作品ですが、”おとな”たちが一体どんな道具が好きなのか知りたくて、書店で手に取りました。

おとなになる のび太たちへ

しっかりとした装丁の単行本だけれど、開いてみるとページの殆どはマンガで、あっという間に読み終えてしまうような作品でした。

実は、僕はマンガを読んでいると、物語がすべて絵や文字で見える化されているせいか、余白が無いように感じてしまい、うまく読むことができません。あっという間に読めるわりには、内容が入らないのです。きっと、絵を見てわかった気になってしまうことが原因だと思うのですが。

僕も、子どもだった多くの”おとな”と同じように、ドラえもんのアニメが好きで、映画も観ていました。しかし、マンガは殆ど読んだことがありませんでした。むしろ、ドラえもんがマンガであることを知ったのは、かなり大きくなってからだったように思います。

当時は、テレビの前でひみつ道具の数々にワクワクしていたのと同時に、ジャイアンみたいな奴がいなくて良かったと思っていました(笑)。必然的に重ねて見てしまうのは、のび太でした。

さて、本のことに戻ります。

この作品で登場する憧れの”おとな”たちは、親が考えた"就いてほしい職業"ではなく、「子どもがなりたい職業の方々」が選ばれているように感じられました。

プロゲーマー、声優、YouTuber、俳優、宇宙飛行士などなど、憧れの職業に就いた方々が選ぶ1話が、珠玉のセレクトというか、ドラえもんの世界観がよく反映されているのではないかと思いました。

本編のマンガは読んでみると、意外と深い話が多くて、単純に終われないような作品に触れるたびに、モヤモヤした読後感が残ります。

その読後感のまま、選者である”おとな”の文章を読むと、なるほどこういう解釈もあるのかと納得。マンガのひとつの話が糧となって、この職業を目指していた方もいるくらいに、ドラえもん体験は大切なきっかけとなっているようでした。

どの方の文章も、とても優しくて温かです。

そして、とにかく頑張れ、という人もいる一方で、のび太のように失敗してもいいよね、という言葉で結ぶ方も。

”おとな”の中で、僕が印象に残っているのは俳優の方でした。読後感のモヤモヤを共有できたことも嬉しいのですが、ある意味ではドラえもん的な存在として身近な方を紹介しているのは、とても意外でした。

リアルが見えすぎるとエンターテイメント性が薄れていくという危惧を示したあとで、ひとりの俳優を支える人物を紹介するのは、信頼と尊敬の表れであり、俳優というイメージ構築のために日々の努力があることを知らせるメッセージのようでした。

読み終えて分かったことは、

ドラえもんは、夢を叶えてくれない、ということ。

今回読んだ作品の中でさえも、のび太の夢が叶う結果ではありませんでした。単なる子ども向けのファンタジーではないのかも知れません。一体、ドラえもんの作者とは何者なのでしょうか。底知れぬドラえもんの世界が、”すこし不思議”どころか”すこし怖く”なってくるようです。

そして、マンガを読んで大きくなった”おとな”たちは、働くことを楽しみ、課題を超えることに明るい光を見ていました。

ドラえもんがいたらもっと人生が良くなったはず・・という後ろ向きな持ちではなく、未来を自分で作っていこうという思い、いつかドラえもんのような存在が生まれてくるかも知れないという期待の表れなのかも知れません。

立ち止まって考えてみると、ひみつ道具も、それらを出してくれるドラえもんでさえも、夢を叶えてくれる存在ではありませんでした。誤解を恐れずに言えば、道具でしかないのです。道具を手に入れてどう使うか、それは自分に任されていて、使いこなすことが出来るまでには、とても時間がかかるかも知れません。

夢を叶えてくれるドラえもんはいないけれど、夢を叶えられる自分がいる。

のび太だった”おとな”たちが、未来の”おとな”に向けて語るのは、「ドラえもんではなく自分自身が、夢を叶えることができる」というメッセージなのかも知れません。

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