能ある鷹か、無能な鷹か #書もつ
歴史小説は、その言葉遣いの難解さや、時代背景の知識不足、何よりも登場人物の名前が難しいなど、色々と理由をつけては距離を置いてしまいがちな存在です。でも、それは単なる先入観というやつで、読み始めてみると意外と楽しい・・となる作品も多くあるはずです。
歴史小説を新しい語り口で書いた作品として、当時かなり話題になり、映像化もされた作品を読みました。
毎週木曜日は読んだ本のことを書いています。
のぼうの城(上・下)
和田竜
秀吉の時代・・秀吉の圧倒的な兵力によって西方からの天下統一が進められている中で、関東の雄である北条氏へ攻め込むことになった。北条氏の本拠である小田原城は秀吉方の数万の兵力によって、山方だけでなく海までも埋め尽くされ、風前の灯となっていた。
北条方では、忍城のある土地で農民と親しく交わる武士がいた。不器用で、役立たず、でくのぼう・・のぼう様と呼ばれていたのが、後の忍城の城代となる成田長親であった。
戦国の世にあって、戦もできず、農作業も足手まとい、それでも農民たちからの親交は篤いという稀有な人物である長親。その長親を中心として、武将たちが秀吉方に立ち向かう様子、忍城の歴史的な戦いを描いた作品です。史実をなぞりつつも現代的な小説のように書かれているのが、この作家さんの特徴。
この作家さんの作品は、ずっとその時代にいるわけではなく、ところどころで作者が顔を出して、読み手を”いま”に引き戻してくれます。そのタイミングで、読み手もクールダウンしたり、史実をきちんとあたっている様子がうかがえるのです。
また、登場人物たちの言葉遣いが絶妙に現代的になるのも、歴史上の人物が友達になったような感覚になって、楽しく読めました。
戦国の世に重んじられていた武士の精神を鮮やかに描き出し、現代では無駄とも思えるような人と人とのやり取りがあったことを知りました。武士といえども、それぞれに個性があり、魅力がありました。ほんとうにそんなやり取りがあったかのように、臨場感のある描写はこの作家さんならでは。
歴史的なイベントの影には強い女性の姿があったりしますが、この作品にも印象的な女性が登場して、場を盛り上げています。武将も男なんですよね。
僕が、この時代に生きていたらと思うとゾッとしてしまいますが、こうして読み手として楽しんでしまえるのが読書の良さかも知れません。歴史小説ということで、読み始めこそ言葉遣いや登場人物の整理に時間がかかりますが、スピードに乗るとあっという間に読み終えてしまった印象でした。
歴史に詳しい方なら、忍城の戦いの結末をご存知かも知れませんが、緊張感のある戦いの日々を、爽やかに描いている作品でした。
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