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海と島と  #書もつ

読書の秋の始まりにこんな作品はいかがですか、のコーナー(長い)

毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。

今回は、文庫本で4冊となる歴史小説。言葉遣いがとても現代に近く、話しているのを聞いているような、もっと言えば、映画を観ているような描写に出会える作品。いつもの読書メーターからの引用も長めです。

村上海賊の娘(一)~(四)
和田 竜

(一)
序章に騙され、すっかり身構えたのも束の間、現代風の言葉遣いと執拗なまでに細かい描写やら、コミカルさにはまってしまいました。

エンターテイメント性のある作品で楽しく読むことが出来ます。史実は抜きにして、様々に個性的なキャラクターたちの今後がとても気になります。次の巻も楽しみです。

(二)
読み進むにつれ、なんだか息が苦しくなってくるような感覚を覚えました。丁寧な描写は、想像力を強く支え、砂ぼこりが目の前で起こっているようです。

ページを繰る手がもどかしくもあり、前巻の人物たちの命が気になって先に進みたくもあり、あっという間の2巻でした。命が軽視されていると見るのか、幸せの形が違うだけと考えるのか。次の巻も楽しみです。

(三)
何度も話が転換し、そのたびに読み手が意表を突かれる巻でした。考えてみれば、起承転結の転にあたる部分、歴史の奥深さと作家の筆力を満喫しています。

とにもかくにも、結びに向けた終盤の展開により、読み手の舳先も景に向かい、走り出したくて記録するのがもどかしくて。全巻揃えて読みはじめて良かった、でも完結するのも惜しい。

読書の楽しさを教えてくれるような作品に出会え、本当に嬉しくなってきました。いよいよ結び、行ってきます!

(四)
凄惨でも清々しく、目まぐるしい場面展開ながらも、独特の口調でとても楽しく読むことができました。

臨場感に任せてページを繰れば、息が詰まる緊張の連続で、息をするのを忘れるくらい没入してしまいました。当時の乱世が恐ろしく、今の世に生きることに安堵しました。

知らない世界を体感することの楽しさを知り、読書でないと楽しめないスピード感を感じる作品でした。夏の終わりに良い作品が読めました。

当時の感想には、いかにスピード感があったかを何度も書いています。4巻というと、やや構えてしまう量ですが、読み始めたら止まらない楽しさがありました。

圧倒的に調べ上げ、物語を編んで、それをショーのように華やかな舞台に仕上げる、それは作家というより演出家のようだと思いました。作家の別の作品は映画化されましたが、なるほど読みながら鮮やかに景色が浮かび、声が飛び交うような感覚がありました。

小説の醍醐味として、知らない世界を追体験することが僕は好きなのですが、この作品では生と死の近接性を強く感じました。

戦(いくさ)によって命を落とすことは、ある種当たり前であり、身分によってその命の軽重が異なっていること、それは僕が認識している現代において何にも例えようがなく、読み始めでは戸惑いや嫌悪感さえ感じていました。

しかし、読み進めていくうちに、なぜ海賊として生きたのか、何となく掴んだ感触がありました。人としての役割は時代や社会によって移ろう存在であり、主人公の強さは身体的なものだけでなく、その精神にこそ込められていました。

ヒーローのように描かれる姿には、現代の自己実現性を追い求めるような、性別の関係ない"人間の願い"が込められているようだと感じました。

性別の壁が低くなりつつある今だからこそ、主人公のような確固たる自信をもつ人が慕われ、求められるのかも知れません。

時代は変わっていますが、舞台となっている瀬戸内の島々の地形は、当時とあまり変わってないのではないかと思います。

以前、旅行したとき、その海と島の"近さ"に驚いた記憶があります。海に囲まれているというだけでなく、海から見える島々も当たり前のように存在していたのです。

海と島、それは静と動であり、もしかすると生と死なのかも知れない、そんな対比を思いついてしまうほどに、シンプルな美しい景色だったのを思い出します。

とうてい、主人公のようになれそうもありませんが、間違いなく元気をもらえる作品でした。瀬戸内の風景とともに読めば、船酔いだってするかも(笑)。歴史小説が苦手だと思っている人ほど、主人公に惚れてしまうかも知れません。あぁ、また読みたくなってきた・・。

#村上海賊の娘 #歴史小説 #英雄 #海賊 #海 #臨場感 #爽快感

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