君の髪
きみのショートヘアーが、恋しい。
若いパティシエは、美しい恋人のブロンドの髪を想った。緩やかなカーブに、艷やかな色、ふわふと弾む毛先の感触が、彼の指に蘇る。
勤めているキャフェでは、新作ケーキの試作が始まっていて、多忙を極めていた。恋人はおろか、自分の顔を鏡で見る余裕もないくらい、一日中厨房にいる。
クリーム、フルーツ、チョコ、色々試してみるが、なかなか見つからない。求めているケーキは、こんなのじゃない。
ふうっと息をついた刹那、よろけて背後のテーブルにぶつかる。カランと音を立てたのは、マロンクリームの入ったボウルだった。
慎重に袋に詰め、いくつもの穴がいた口金を付けて、メレンゲにクレームシャンティを載せたケーキに、静かに絞り出す。
恋人の髪の毛を思い出しながら、慎重に、美しく。かの、モンブランの萌芽。
一ヶ月後、
モンブランは、パリの名物になっていた。
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