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満員電車だよう #書もつ

読み始めて、すぐに気がついたのは「こりゃ読み応えありそうだな」ということだった。漢字が多い、いやそんな小学生みたいな感想じゃなくて、漢字は漢字でも「ちょっとマイナーな面白言葉ワード」が次々と読み手を襲う。

言葉の応酬で景色が変わっていく。

文学“的”だなんていったら、作者からは「これは立派な文学だぞ!」と怒られそうだし、エンタメ小説なんて言おうものなら、主人公からも「俺の赤裸々な描写がエンタメのためだけに紡がれたのではない!」と叱られるだろう。

とにかく、読み始めてしまったら、ころころと転がっていくのだ。達磨、否、りんごの如く。

夜は短し、歩けよ乙女
森見登美彦

タイトルも作者名も、至る所で見かけていた。どんな話なのか興味があったのに、何故か古本屋で見かけることがなかった。それはつまり、手放したくない、そばに置いておきたい、そんな作品だからではないか。そんな期待を込めて紐解けば、果たしてそこには、口角が緩みっぱなしの森見ワールドがあった。

この作品を端的に説明すれば、何のことはない大学生の恋愛小説である。であるが、一筋縄では行かないどころか、“先輩”(男)の繰り広げる迂遠で一途、そして一方的な駆け引きが、もう面白いのである。

恥ずかしながら、僕も自慢できるような恋愛経験を持ち合わせていない。“先輩”は大学生だが、それは僕からしたら勝ち組の部類に入る。がんばれ、と応援しながらも、チッ悔しいぜ、くらいは感じていた。

あまりにも純粋な“彼女”もまた、ある意味では男の憧れのような存在だったのだと思う。あざとくない、素直で穏やか、好奇心が旺盛、黒髪が綺麗。作者は読み手の男性に向けて、いやモテない男性読者に向けて、疑似恋愛を描いてくれたのではないかとさえ思う。

とはいえ、女性の読み手にとっても、彼女の姿は純粋かつ危なっかしく映るものと思う。こんな友達、いる?いないよね。

男女とも、純粋であるが故に、大学生という不安定な、混沌を極める学園祭をクライマックスの舞台に用意したのだろう。…もう破茶滅茶だった。

意味がわからない設定でないだけに、映像も浮かぶし、元ネタのようなものがある部分では、笑いを堪えられない。男女それぞれの視点で交互に描かれているのも、臨場感のような分かりやすさがあった。

落ち着かない、けれど暑苦しい。物語の最後を見届けるという目的地に向かって、ぎゅうぎゅうで走っている感覚。気がつけば300ページを超えていた。

あーあ、満員電車なのに、誰も降りないじゃないか。そんなことを思った。どの場面も濃厚でぎゅうぎゅう、それでも窓から見える景色が面白くて乗り続けてしまった。



色とりどりのぎゅうぎゅう感、水風船ならではの緊張感もありますね。infocusさん、サムネイルありがとうございます!


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