傘事情
嘘だ、信じられない・・
この傘を持って出たのに、雨に降られるなんて。この傘を買って以来、使ったことがない、魔法のような傘だったのに。
僕は、折畳傘が苦手なんだ。きみは、いつも「オリタタミじゃないほうの傘」と言っているけれど、僕は知っている。それを棒傘と呼ぶことを。
両手で引いて傘を開く。骨と布とが引っ張り合って、少しだけ軋む。新しい布に当たった雨は、コロコロと転がりながら落ちる。
本を読みたくて手袋を外すと、雨粒が手のひらに落ちてきた。
あれ、あんまり冷たくない。
帰り道は桜並木、蕾に当たる雨は、強いけれど温かい。
・・催花雨だよ、ほら起きて、もうすぐ春だよ・・
寝ている子どもをゆっくりと起こすような。
ひらいた傘の中には、北海道のスキー場できみと見た、元気な青空がプリントされていた。
傘の魔法は解けた。
そして、春がやってくる。
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