ル・サンカンシオン #書もつ
時おり、建築家の書いた文章を読むことがあります。
言語化なんて軽々しい表現では申し訳ないけれど、感覚的で精神的な景色を、緻密に言葉に置き換え、軽やかに心情を語り、必要な情報を伝えようとする姿勢に、ハッとさせられます。
おそらく、訓練のように気持ちや感覚を言葉に変えていく作業を繰り返しているのだろうと思います。こんなに易しい言葉で書いても、品があって穏やかで。
建築に興味がある人、旅が好きな人、この人のエッセイは体験しているでしょうか。
暮らしを旅する
中村好文
僕は、建築家という職業が、実はよくわからないのです。本人が材料を組み立てるわけでもないし、まして住んだりすることも稀だろうし。
仕事を受ければ受けるほど、その建築家は“上手く”なるのでしょうか。それは誰が決めているのでしょうか。
きっと、経験によって得られるものもあるのでしょうけれど、むしろ本人が持っている感性や主義のようなものが、時を経て、じんわりと滲み出していくものなのかも知れません。
この作品には、筆者の仕事だけでなく、余暇も仲間も書かれていました。短いのに、満載でした。惜しむらくは、家族の記述がなかったことだけれど、そこはあえて触れていないからこそ、ひとりの建築家として、書き手としての存在感があるのかも知れません。
しっかりした書籍のデザインなのに、収められている話は、僅か42編。短く、爽やかな、その時その時の景色が、瑞々しく詰まっていました。
どんな仕事にも、憧れや尊敬があると分かる文章、受け取る読み手は心地よく歩き続けられました。思いを実現したいと言葉にする建築家に、強い仲間が笑顔で応じるような場面が何度もありました。
羨ましい。
この作品は、なんとも柔らかく易しい言葉遣いなのが特徴的でした。
古い切手に描かれた浮世絵をまじまじと見つめ、幼い頃の自分自身に思いを馳せるひとときの旅。記憶の力強さを感じて、さて自分はどうかと思いを巡らせるのでした。
はい、ご一緒に。
「ル・サンカンシオン」
今の季節にぴったりの、フレンチギャグ(なんだそれ)。
好きなものを無自覚にひたすらに集めていたことに驚き、体得するような瞬間は、誰にでもあるわけではないはずです。感覚を信じることもまた、自由になる手段として大いに活用すべきなのだと思い知らされるのでした。
確かに、旅先で本を読むこと、そのことが旅で、それが未知の世界ではなく、既知の、懐かしいような忘れがたい記憶の中を見るものだとしたら、帰る家のような安心感が得られるのかも知れません。
さて、それはどんな本でしょう。
この筆者の代表作とも言える「住宅巡礼」も読みたくなってきました。