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孤独な王子とミュージカルと #書もつ
ミュージカルというと、何となく苦手意識がある人がいる。例えば、タモリが「ミュージカルは苦手」と話しているのを何度も見聞きしていたこともあるからかも知れない。
急に歌い出すとか、踊りが揃っていて世界観についていけないなど、音楽やストーリーがあまりにも唐突で・・となかなか没入しにくいところに、短所と長所があるのだと思う。
キャッツを観に行った時、スキンブルシャンクスのナンバー(分かる人だけ分かればいい精神)で、僕の隣に座っていたカップルは、取り残されたように微動だにしていなかった。周りの手拍子に、明らかに引いていた。
僕はミュージカル好きだ。
ただ、幼い頃にはあまり観劇の経験はなかった。保育園に来てくれた人形劇を観るくらい。当時大人気だった「ひょっこりひょうたん島」を演じていた劇団だったと、あとから知った。
社会人になってから、時間とお金に余裕ができてきて、劇団四季にハマった。
もともと、中高・吹奏楽部からの大学・ジャズ・ビッグバンドサークルで活動していたこともあり、音楽が好きなのだ。さらに、ミュージカルだけでなく、演劇や舞台を観ることに楽しさと喜びを見出していた。
プリンス、そう呼ばれた彼の作品を読んだのは、彼が演じていた演目を思い出したからだった。
ミュージカル俳優という仕事
井上芳雄
大型ミュージカルに、大学生ながらデビューし、一躍有名になって、“プリンス”としてミュージカル界を牽引していたのが筆者だ。
鮮烈な原体験から、人生を決め、邁進する。それなりに失敗や残念なことは経験しつつも、大きな挫折らしい経験は少なく、自らの努力がきちんと形になるタイプ。・・完璧、に見える。
意地悪を言えば、これは誰かが井上芳雄を演じているような、それこそお芝居を観ているような距離感があった。
ミュージカル俳優の魅力と苦悩は、おそらく多くの人が想像出来る。それでも、自分たちの役割を信じている彼や、その周囲の人たちを見るにつけ、観る人の人生を豊かにする仕事の「想像を絶するやりがい」が羨ましい。
僕は以前、井上ひさしの「組曲虐殺」を劇場で観た。主演は、井上芳雄と石原さとみ、脇の俳優もテレビで見たことのある人ばかりだった。
しかも音楽は、ジャズピアニストの小曽根真による生演奏だった。何という贅沢な舞台だったのだろう。
目を見張るような舞台装置もなければ、息のできないような鋭い緊張に満たされる時間も少なかった。設定された時代背景は、苦しく厳しいはずなのだが、とにかく優しさと安らぎのある舞台だった。
実在の人物を演じる難しさと、俳優本人の隠しきれない個性が混ざり、その人が生きていたらきっとこんなふうになのかも、と単純ながら感じることができた。
そんな作品が、井上ひさしの遺作になろうとは。このエッセイ集で再び出会い、懐かしくなったのだった。
おそらくご本人が書いたというよりは話した言葉を、エッセイのように書き直したのだろう。本心ですよ、と言いながら心の中では舌を出しているような、セリフのように整った言葉たちだった。
人付き合いにも何となく壁を作ってしまう、と書いてあったけれど、この作品もまた、何となく彼の正体のようなものは隠されているような、すっきりしない表現が気になった。
ついつい批判的になるのは、読むことに期待していたからかも知れない。
華やかで力強いミュージカルの世界が、やはり人で作られているし、守られていると知った。
彼が完璧な人間ではないとわかり、安堵した。
舞台で演じつつ、孤独な雰囲気もあるサムネイル、infocusさんありがとうございます!ミュージカルの華やかさの裏側を見たようなエッセイでした。
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