独立記念日はありますか #書もつ
独立記念日というと、国の祝日のようなイメージが強く、日本にはあまり馴染みのない感覚かも知れません。でも、それを人間関係に当てはめてみたり、仕事に当てはめてみると、良くも悪くも結構多くの人が持っている記念日なのではないかと思います。
例えば、引っ越しして親元を離れるとか、進学で上京する、転職するため新卒で入った会社を辞める、結婚する、フリーランスになる・・最近では、さまざまに独立の形があるようにも思います。
毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。
独立記念日
原田マハ
表紙の絵画は、言わずと知れた(すみません、好きなもので)、ゴッホの「花咲くアーモンドの枝」です。
さわやかな背景に、ゴツゴツと力強さを感じる枝が伸び、可憐だけれど強い意志を感じる潔い花々。画家の弟に子どもが産まれた時に贈られたと言われているその絵には、春の芽吹きの生命力と、新しい季節への期待が感じられます。
きっと、読み手が女性だったら共感したり、励まされたりするのではないでしょうか。前を向いて生きる女性の姿を書かせたら、やっぱりこの作家さん。ふだん、アートの世界でのフィクションを読んでいることが多いのですが、短編ならではの緩急もまた魅力です。
さまざまな場所、さまざまな生き方の女性たちが、自分で決めていくさまは、性別関係なく励まされる思いがします。特に、多くが仕事に絡んだ物語。彼女たちの行く末が幸せであることを祈りながら、次の物語へと歩を進めていくように読みました。
最初の物語から、僕には思い当たることがあって、思わず何度も読み返してしまいました。
これって、
川崎市の武蔵○○駅から多摩川を渡って二子玉川駅へ、そこは東京都世田谷区。
ではないのかと、気がついてしまったのです。二子玉川は、通称”にこたま”と呼ばれています。俄然、物語が近くにやってきました。あっという間に没頭して、次へ次へとページをめくっていきました。
面白いのは、物語の登場人物が次の物語に引き継がれていること。ちらっと出てきた人が、次の物語では主役になっていたりして、全く設定は違うのに、繋がっていて一体感がありました。
どの物語でも独立をテーマにして、前を向く女性が描かれており、出版されたのが2012年ということもあって、当時の世相を思い起こさせるような記述もあって、とてもリアルでした。そして、どれも温かい。
「まぶしい窓」というタイトルの物語は、深夜まで営業している託児所に勤務する女性の話。女性は、事情があって辞めることになるのですが、その帰り道でこれまでのことを考えていました。それは、まさに読み手へのエールだと感じ、涙が溢れました。
いくつもの物語があってややお腹いっぱいになっていましたが、終盤に、特徴的だった人物が再度登場してくることで、こんな結末があるのかと感激しきり。この作家さんの作戦にやられてしまうのでした。
ちなみに、僕の独立記念日は、8月23日です。結婚のため、2人暮らしを始めた日です。
独立すること、それは一体どんなことなのでしょうか。迷いや悩みがある人には、背中を押してくれる一冊になりそうです。