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物語は錆びつかない #書もつ

毎週木曜日は、読んだ本のことを書いています。

ある日、以前投稿した「コメディのエスプリ」に、コメントが入ったと通知がありました。スキではなく、コメントが入ることは、いままでのnoteのやり取りとしては、珍しいことでした。

コメント主は「幻冬舎」・・げ、げんとうしゃ・・あの大手出版社でした。その投稿は、書もつシリーズと呼んでいる読書の記録。僕の好きな作家が書いた、かなりスパイスの効いたコメディ作品への記事に、いったいどんなコメントが入っているのか・・。

やや緊張して読んでみたら、作家の原田マハさんの新刊発売を記念したイベントの紹介でした。

そこで紹介されていた新刊がこちらでした。

リボルバー
原田マハ

いきなり当作から外れますが、この作家の作品は、一幅の絵画や、ひとりの画家が描かれていることが多いです。いわゆるアート小説であり、絵の書き方や画家の半生を伝えるものではありません。

僕は、それを読み手として、一枚の布のような作品として味わっていると感じることがあります。

分かっている史実をつなぎあわせながら、(作者の願望が込められた)創作が丁寧に織り込まれて、それを読み手が受取り、手ざわりを確認したり、光に透かしてみたり、羽織ってみたり、そんな感覚なのです。

原田マハさんについては、昨年の秋に、僕の好きな作品とともに、熱く語った投稿があるくらい、僕にとっては影響力のある作家なのです。

「リボルバー」で描かれているのは、これまでとは少し趣きが変わって”二人”の画家でした。それは、どちらも個性的で圧倒的な筆力を持つ、ゴッホとゴーギャン。

それこそクセの強い二人の繋がりが、丁寧に描かれるとともに、作家の真骨頂である、絵を通して描かれる画家の素顔に、読み手は人間味を見出し、新しい発見と共感を覚えるのです。

しかし、何といってもこの作品の主役は、タイトルにもなっている「リボルバー」・・錆びついた一丁の拳銃が、隠された物語を明るみにし、世界を一変させるかもしれない・・そんな期待に満ちた物語でした。

僕は、かつてオランダに訪れたとき、運よくゴッホ美術館に行くことができました。エントランスホールには、大きく引き伸ばされた黄色地の「ひまわり」が来訪者を迎えてくれて、”ゴッホの国”に来たんだなぁと感じたのがとても懐かしいです。

そして、ゴーギャンも日本に企画展がやって来た時に、竹橋まで足を運び、あの「我々はどこから来たのか?我々は何者なのか?我々はどこへ行くのか?」を観ることができました。ほかの作品にもあった、黒目がちの褐色の現地人たちの視線は、ゴーギャンが目指した楽園を冷静に語っているようでした。

二人の画家の作品を少なからず体験したことのある読み手にとって、この作品は、ある意味では暴力的でもありました。

絵を通じて、どちらの画家にも、良い人であってほしい、幸せな人生であってほしいと、そういう願いを無意識のうちに持っていたのです。それを少なからず否定するような物語になるのではないか。そんな不安を抱えながら読み進めました。

特に、ゴッホが亡くなった年齢は37歳と、僕の現在の年齢に近いことも印象的でした。知識として、彼らの時間的・空間的なつながりを知らなかったことが、悔やまれました。

この作品を読み始めたのは6月10日でしたが、131年前の同じ日に、ゴッホ(フィンセント)が弟のテオに宛てた手紙が作中に引用されていました。

『いつの日か僕の個展を
どこかのカフェで開催する、
その方法をみつけられるはずだ』

作品の序盤に登場する、この手紙の言葉を目にして以来、僕はゴッホに対する見方が変わりました。誰も信じられない、しかし誰かが信じていると分かっている、そんな危うい孤独との戦いを振り払うように、芸術に没頭していったのではないかと考えたのです。

錆びついたリボルバーが語るのは、明るくはないけれど、鮮やかに生きた画家たちの物語でした。

アートが難しいと感じている人にこそ、読んでほしいのが、この作家さん。

やっぱり、自論は変わりませんでした。

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奇しくも、子の誕生日に、ご近所の玄関先で束ねて売られていた黄色い百合が、我が家に来て、幾輪も満開を迎えていました。ひまわりではないけれど、強い黄色と、どこかエキゾチックな雰囲気は、不思議と彼らを重ねて見てしまいました。

この作家の特徴として、ほかの作品も含め、篤い友情が描かれていることが多くあって、僕はそれが好きなんだと気がつきました。画家たちだけでなく、作中に登場した女性たちのつながりもまた、作家による読み手への励ましのように読めました。

現代、ゴッホとゴーギャンが評価され、企画展に行列ができること、それをどこかでふたりで眺めて、ハイタッチして喜びを分かち合っていたら、とても幸せなことです。

良い作品でした。


なかなか示唆的なサムネイル、infocusさんありがとうございます!ゴッホといえば、の花をまさか裏から見ているとは。きっと画家たちはそんなふうに時代の景色を見つめているのかもしれませんね。



(以前書いた、長めの読書感想文です。「13歳からのアート思考」を読んだこともあって、この作家さんと僕の関係性がより鮮明になりました。お時間がある方は是非)

#推薦図書 #私の好きな原田マハ #原田マハ #新刊

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