シン・美術館体験
新しい美術館って、こんなふうになるのか。
先日、渋谷にある美術館に行きました。渋谷は東横線の駅がまだ地上にあった頃の、僕がイメージする姿から、20年で(そんなに経ってる!)かなりの変貌を見せている街です。
渋谷にある美術館といえば、駅から少し歩くけれど、松濤美術館などがよく知られています。
美術館のある場所、それは静かで落ち着いたイメージがあります。街中であっても、館内は広くて、歩きながら作品を観る・・場合によっては、足が疲れてしまうこともあるでしょう。多くの作品があって、時間をかけて巡りながら、静かに絵と自分と対話を重ねているような、そんな雰囲気を想像します。
しかし、この美術館は違いました。
渋谷駅から徒歩1分。真新しいビルの一角にある美術館なのです。美術館というには物足りない、あまりにもコンパクトなスペースと、光と音に囲まれている展示スペース(らしき場所)に、本当に大丈夫だろうかと不安になりました。
しかも、入場時間ではなく、滞在時間が限定されている予約制。1回20分で、少人数で絵を鑑賞するという、新しい鑑賞のスタイルでした。
昨年の秋に、ひとつの本を読んで以来、ずっと気になっていたアーティストである、バンクシー。彼の作品が展示されていると知って、久しぶりに渋谷へと向かいました。
結論からいえば、
圧巻、のひとこと。
たった3枚の作品でしたが、それぞれに物語がふんだんにあり、さらにモチーフは彼の代表作として名高いものばかり。
ジャンルとしてのストリートアートは、額縁に入れられたり、まして美術館に飾られるものではないので、現場で観ることが求められています。
そういう意味では、モチーフの説得力は即時性もあるし、ストリート(現場)にしかないと思うのですが、それを補うべく、作品の飾られている壁の前にスクリーンを落とし、映像によってバンクシーや作品の解説をするわけです。
執拗に希少性を語るのは個人的に好ましくないと思いましたが(笑)、作品群の多様さや、作品のもつ背景などは必聴モノでした。
事前に知識を入れて観る作品は、未知と言うよりも確認に近い感覚で観ることができるため、びっくりするというよりも、ようやく会えた感が強かったのです。
動画以外なら、どんどん撮影OKということで、作品たち。どーん。
デジタル美術館なんていうから、デジタルな画面で見るのだと勘違いしていました(笑)・・紛れもない、本物の作品でした。
ステンシルでスプレー塗布だから、表面の凹凸などはなく、のっぺりした画面でしたが、何度となく写真で見ていたものの実物だとか、木の板に描かれた作品だとかが分かって、鳥肌が立ちました。
観せる側のこだわりとして、「オークションでシュレッダー事件」の額縁を3Dプリンタで精巧に再現しているのだとか。こんなふうに見ていた作品が、目の前で切り刻まれたら、そりゃ“あんぐり”するよね・・とも思いました。
とても小さいのですが、作品左下の彼のサインに❤️がついているのはとても珍しいそうです。
この作品に、僕は完全にやられました。作品の側面(画面右)にバンクシーのサインがあります。裏面には送り手への直筆のメッセージもあるとか。
そんな大切な作品を別人(現所有者に宛てたメッセージではないため)が持っているのが、ちょっと気になりますが、ストリートでは壁面の平面でしか存在しない作品に、側面とか裏面と言った概念が付随することは、かなり意義のあることだなと思うのです。
まして、アートビジネスを揶揄するようなバンクシーの作風にして、友人宛の作品が結果的に誰かの手に渡ってしまうという皮肉とも言える結末を、目の当たりにしている現実に、戸惑いつつも感激してしまったのです。
一般的に、この“ボムラブ”として有名なのは左右が反転したものです。
このサイズに小さくして、左右が反転し、かつレーダー(オレンジの丸)が重ねられているとのことで、とても貴重(世界で1枚!)なのだそう。
3枚目は写真を撮らずにいましたが、これまたメッセージ性の強い作品で、これも僕が見たかったのでとても嬉しくて感激しました。火炎瓶ではなく、花束を投げつけようとしている男性、と言えば浮かぶでしょうか。(Love Is In The Air、もしくは、Flower Thrower)
展示スペースは、スタッフの方が1名、僕以外のお客さんは2名でした。つまり、たった4人だけで作品を見つめることができるのです。
時間に制限があるものの、混雑も賑やかな声もありません。しかも音声ガイドのような解説ののち、近くからじっくりと観られますし、写真撮影もできるなんて・・と驚くことばかり。大きな画面には、フォトスポットまで用意されています。
20分の濃密な時間を過ごして、会場を後にするとき、ステッカーが手渡されました。そして、さらに風船まで・・子どもがいる家庭には、そのお土産はありがたい・・!と嬉々として受け取りましたが、特に大きな袋を持っていなかったので、真っ赤な風船を手に持って(ヘリウムではない)帰りました。
こんなにお得な美術館体験が、今ならなんと・・!(笑)
300円。
一般的な展覧会は1,000円を超えて、人混みの中でジリジリとガマンを強いられることもあります。しかし、この展覧会は少人数で実施しており、完全予約制。3枚の絵を楽しむ時間としても、とてもお得感がありました。
日頃から見せ方に精通している方が工夫されて、厳選された3枚の作品をどう見せるか、この状況で楽しませる仕組みはどうすればいいのか、それを考えて実現したような場でした。
これまでの美術館とは違う、歩かない、待たない、写真が撮れる、お土産がもらえる・・それは、とても新しい美術館体験だと感じさせてくれました。金額的にも、大きな負担感がなく、本当に観たい作品だけを観られるって、なぜ今まで気がつかなかったのだろうと思ってしまいました。
渋谷駅ということで、最後はこちらにもご挨拶。元気もらいました。