うまい!って、かるい?
すごく美味しいものを食べた時に、とても嬉しくなるのですが、食べ終わっても、お腹いっぱいにならないことがときどきあります。ひと口サイズならいざ知らず、定食でもそんな感じなのです。
美味しい美味しい、驚きながら食べているのか、食べるのが早すぎて実感として伴っていないのか。
いいものを食べていれば太らない、なんて言葉もあるくらいなので、やはり「美味しくて、いい食べもの」はカロリーにならないのでしょうか。
ただ、満腹と満足はまったく異なるものです。
満腹は身体的な感覚。満足は精神的な感覚。お腹いっぱいではないけれど、とても満足していることはあり得ます。
サクサクの衣に、柔らかくて甘い豚肉、キリッとしたソースの味を口に残しながら、ホカホカのご飯を頬張る。そんなとんかつの記憶(一昨日ですが笑)
野菜好きの僕は、最初にキャベツを食べ切ってしまう癖があります。だから、とことん、とんかつに集中することができます。うっかりご飯も忘れて、ひたすらに向き合うことも。
そんなふうにして食べたとんかつがとても美味しかったのです。そして、冒頭のような現象に。もちろん、ご飯もすべて完食しています。
妻も、同じようなことを言っていました。「すごく美味しかったのに、お腹いっぱいじゃないよね」。そう、不思議だよなぁ「美味いって軽い」のかなぁと考えていたら、ふと、あることに気がつきました。
それは、ライブやコンサートで見る、プロの演奏家の表情のこと。
彼らは、舞台上で素晴らしいパフォーマンスをしますが、「懸命」ではありません。汗だくでもなく、力を込めている感じもないのです。あえて汗だくでやる人もいないことはないのですが、ほんとうに軽々と演奏しているように見えるのです。
僕はトランペットを吹いていたこともあって、クラシックもジャズも、いろんな奏者を観たことがあります。そして、だいたいにおいて「簡単そう」に吹いているのです。
楽器と身体を軽々と操り、”一生懸命に練習しました感”が微塵も出ない姿に、観客は安心し、楽しむことができるのです。
そして帰り道で、あれ?トランペットってそんなに簡単だっけ?と、考え直すわけです。そして、翌日に自分でも試してみて、全くダメダメだったりしたことは何度もあります。
何であんなに簡単そうに吹くのに、めっちゃいい音なんだ!という感想が、さきの“とんかつ”にも当てはまるような気がしたのです。
うまいは、かるい。
名店のとんかつと、トランペットの名手が、何となく似ているような気がした、そんな話でした。