鼻で買う
頻繁にすることのない買い物があります。食料品ではなくて、衣類や本などの買い物です。
時代の流れなのか、便利さからなのか、ネットで購入して届くのを待つことが増えています。そうなると、店舗で実物を見ることも、いわんや触ることなど出来なくなるわけで。
靴や服など身につけるものは、新しければいいわけでもなくて、サイズや色はとても大切な情報です。同じMサイズでも、その着心地はかなり違ってきますし。
そんなふうにネットで買うようになって、気がついたことがありました。それは、買ったものが届いて箱を開けて、商品を手にして少し眺めたあとのこと。それを自分の鼻に近づけるのです。
そして、静かに鼻から空気を吸い込んで、その商品の匂いを嗅ぐのです。
こんな匂いなんだ、と発見のような気持ちのものもあれば、そうそうこれだよ、と期待していた匂いもあります。後者は本であることが多いです。
夏場にお弁当箱を新しく買ったときには、実は、これはちょっと変な匂いだぞ、と思いました。ツンとする薬剤系の匂い。ウレタン塗装だからとも考えたけれど、以前のお弁当箱もウレタン塗装だったけれど、こんな匂いじゃなかったなと。
結果的に、お弁当箱の匂いは薄れたけれど、使っていたら黒ずみがところどころに浮いてきて、2ヶ月くらいで使うのをやめてしまいました。(もちろん僕の使い方も良くなかったかも)
さて、そんなふうに、商品の匂いを嗅ぐ自分に気がついて、今はネットで買うから玄関先で確認しているけれど、考えてみたら、お店で買うときにも、少なからず匂いを嗅いでいたことに気がつきました。
意識的に鼻に近づけることもあれば、ふわりと空気が動いたときに感じる匂いもあります。
ちょっと変だな、と感じたら、きっと買っていないでしょう(結果的に、手元にそういうものが残らないので、思い出すこともできない)。
実物を、見なくなって、触らなくなって、そして嗅がなくなった買い物。
買うために集める情報が、口コミばかりになって、自分の感覚は置き去りにされている感じも、なんだか寂しいなと思うのです。
とはいえ、お店に行くことも難しい時もありますし、買い物の時間に別のことができてしまうのも捨てがたい便利さです。
と、こんなことを書いているものの、先日ネットで、漆器のお弁当箱を買いました。商品が届いて、箱を開けて手触りを確かめて、いつもの確認。
期待通りの、木のいい匂いでした。