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今さら疑問に思った些細なこと


この国のスーパーで売られている肉は塊ばかりだ。
日本で馴染みの薄切り肉はローカルスーパーマーケットでは売られていない。しかし、日常的に日本食を食べる我が家に薄切り肉は欠かせない。
売っているのはアジア系スーパーマーケットか日本食専門店。
さっき、小間切れ豚肉(冷凍)を求め、ジャパンマート(日本食専門店)へ行ったら、通常500㌘1500円程のものが、なんと半額になっていた。どうやら賞味期限が迫っているようだ。
賞味期限が間近…。
その響きに自分を重ね、同情心に火が付いた。1パックでよかったのに、4パックも購入してしまった。 

購入した同士達を見つめながら献立を考えた。

贅沢にしゃぶしゃぶにしよう。

半額購入したメリットが失われるくらい経済的ではないけれど、自分へのご褒美にはしゃぶしゃぶしかないと思ったのだ。
だって、今週ようやく子どもたちの冬休みが終わり学校が始まった。その上こちらの迷惑も考えず、約3週間も日本から遊びに来ていた友人夫婦がついに帰国してくれたんだもの。
別れの際は号泣、誰よりも毎日楽しんでいたくせに、それを苦労だったと言い、さらに自分ご褒美を与えようとする都合のいい性格。そんな自分が愛おしい。嘘。

同士を救い、お得な買い物で上機嫌になった私は車に乗り込み言った。

「ひゃっほう!今日はノーパンしゃぶしゃぶ!!!」

唐突に口からこぼれ落ちた単語。
ノーパンしゃぶしゃぶ。
そんな言葉、すっかり忘れていたと思っていたが、どうやら脳にはしっかりとインプットされていたようだった。

あれは20年くらい前。私がまだ中学生の頃だろうか。テレビのニュースで耳慣れないその言葉を初めて聞いた。

確か、政治家の接待で使われた飲食店が「ノーパンしゃぶしゃぶ店」だった。

それはまだ子どもだった当時の私の心をぐっと掴んだ。
大人の世界の広さを感じ、成長したらそんな夢のような世界へ繰り出せる。
まだ知らぬ未来への希望と夢を感じた。

過去を回想し、思考が現代に戻った私にふっと疑問が湧いた。

性器を見ながらの食事って‥‥。
エンタメ性が高いのだろうか?
接待に使って失礼ではなかったのだろうか?
ノーブラしゃぶしゃぶならまだいい(気がする)。だってあれは一応は食べ物(赤子用)でもある。そして小山2つの形状(胸・尻)というのは人々に安らぎをあたえる。夢が詰まっているといってもいい。
でもお股はどうだろう。排泄物の出口。肛門様とも目と鼻の先に位置する。
この世に、食事をする時に好き好んで性器を見たい人間がいるのか。どんな変態でも食事中は避けたいのではないか。
醍醐味はいったいなんなのだろうか。私はできれば見たくない。

運転しながらそんな事を考え、今日の献立を豚丼に変更した。
だって、ノーパンしゃぶしゃぶを思い出した私がしゃぶしゃぶを作ったらどうなるのか。私はきっとミニスカノーパンでしゃぶしゃぶを作り、床に全身鏡を置くだろう。自宅ノーパンしゃぶしゃぶ店で店員になりきり、ノーパンしゃぶしゃぶについて熱く語るに違いない。その結果、娘に怒鳴られる未来が見えるからだ。いや、ミニスカートを履いた時点で家から追い出されるかもしれない。

そんなことより、ノーパンしゃぶしゃぶ店はまだこの世に存在するのだろうか。

もしまだあるのならば、今度帰国したときに訪ねてみようか。
ガラス張りの床に映った恥部を見ながら食べるしゃぶしゃぶはいったいどんな味がするんだろう。
時代はジェンダーレス、店員さんは女性?男性?アラフォーの同士もいるのか?その前に毛の処理は必要?
膨らんでいく妄想で嘔吐しそうになる。

一体どんな感情が湧くのだろうか。
試しに一人でやってみよう…か?
そして気がつく。
子どもたちの学校が始まり、友人夫婦が帰国した私に残されたのは、このくだらない思考と奇行と戦う日々だ。
そろそろ本気で就職先を探そう。
ノーパンしゃぶしゃぶ店はこの国にあるのだろうか?お時給はいいのだろうか?
私に需要はないことくらい分かっているが、顔を隠していいならやれないこともない。
そう思っている自分が怖い。

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