伝えるをデザインするという考え方
「デザインはアートではなくビジネスなんだ」
これは大学生の時、教授に教わったこと。
言葉を多用する営業の仕事をしていて通ずる点があるなと、昔のことを思い出しました。
誰かに何かを伝える方法は絵や写真、映像、言葉…色々ありますが、世の中に出回っているものはデザインされたものばかり。
今日はそんなデザインとは何のためにするのか?についてのお話しです。
デザインは何のためにするのか?
芸術系の大学に進んだわたしは、メディアアートについて学びました。
「デザイン演習」という授業では毎週成果物を提出しないといけないのですが、自分好みのおしゃれな(と思っている)デザインに仕上げて提出したところ、デザインは何のためにしているの?と問われました。
そして再提出を6~8回くらい繰り返した記憶が…永遠に課題は終わらない。
わたしは先生が言う「アートではなくビジネス」ということが全く理解できなかったんです。
その時の課題は「分別したくなるゴミ箱」のデザイン。
当時のわたしはこんな風に思っていました。
わたしはこのデザイン素敵だと思うのに!
わたしだったら、このデザインで分別したくなるのに!
お気づきのとおり、すべての主語は「わたし」。
このデザインがいいと思っている根拠も「わたし」。
わたしの意見はいいけど、なんで他の人の行動も変わると思うの?
という点を先生は熱心に手を変え品を変え教えてくれていました。
(今さら振り返って気づく…先生ごめん)
デザインに正解はありません。
だけどデザインする目的と理由は必要。
なぜなら、誰かに行動を起こさせるきっかけづくりが「デザイン」だからです。
まず最初に考えるのは「Why?」
デザインはなんのためにするのか?
商品を認知してもらうため
サービスを理解してもらうため
自分自身に好意を抱いてもらうため
「デザインをする」時はこのような目的が存在するものです。
目的によってデザインは変わる
目的を達成するためには何をすればいいのか?
それを考えるのがデザインだ
と先生は何度も言っていました。
デザインと聞いて思い浮かぶ「PCでお洒落なパッケージをデザインする」「色鉛筆やカラーマーカーでイメージを膨らませる」といった手を動かす作業は、デザインするものが決まってから。
認知、理解、好意…そのために何をすべきか?
Why?が明確になったから、さっそく作業にとりかかろう!
意気揚々と作業をして課題提出したら、ものすごい勢いで却下されました。
誰に向けてこのデザインにしたの?
何を表現しているの?
何を伝えたいの?
企画書を返されただけでなく、質問の嵐。
このデザインによって誰がどんな風に行動を変えるのか。
それを考えていませんでした。
いつ(When)
どこで(Where)
誰に(Who)
何を(What)
どのように(How)
何かを伝えるとき、5W1Hは最低限必要な要素です。
課題の「分別したくなるゴミ箱」の例で、当時わたしはこんな風に定義しました。
When=レジャーなど遊びに出かけたとき
Where=遊園地、動物園
Who=幼児以上の子供たち
What=分別ゴミ箱
How=分別しないと気持ち悪いなと感じるように
ここまで明確にしてやっと、
じゃあどんなデザインならそれが実現できるのか?
というフェーズにたどり着きます。
相手に伝わってほしいことを表現する
この課題をクリアするのに睡眠時間はほぼありませんでした。
(大学生だからできた短期間納期)
この授業で先生が言い続けたことは、一貫して「デザインはビジネスだ」ということです。
デザインすることで誰かに変化をもたらしてこそ、いいデザイン。
課題でわたしが制作した作品は、今思い返しても恥ずかしいほどクオリティがゴミのようなゴミ箱でした。
でも、コンセプトから一貫したデザイン表現はできていたので「いいデザインだ」と言ってもらえました。
(怖い先生に褒めてもらえると浮かれる性格)
ターゲットに設定した「子供たち」の注目を集められるデザインなのかは微妙ですが、少なくとも先生の心はつかみ成績は上々。
「わたし」以外の「誰か」に伝わった経験です。
言葉をデザインする
わたしの仕事は営業。
デザインの勉強はしたものの、デザイナーの仕事はしていません。
ですがデザインの基礎を踏まえると、営業の仕事も言語をデザインしていると言えます。
言葉を使って日々誰かの思考や行動に変化をもたらすことに、教授からの教えがとても生きています。
目の前にいる人に何をどのように伝えるのか?
相手にどんな風に伝えたいか?
どんな考え、行動を促したいか?
戦略的に人を動かそうとするのは傲慢ですが、
わたしは何のためにあなたと対峙しているのか?
というスタンスを明確にすることは誠意です。
誠意を見せることで信頼が生まれ、相手の本心からの反応を得られます。
伝えるをデザインすることが、新しい何かを生み出すきっかけです。